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この春、宮崎県小林市に2週間滞在し、プチ移住生活を体験したcazual取材チーム。その滞在中に出会った素敵な人や体験したアクティビティ、実際に住んでみてわかった小林市の暮らし心地をレポートするシリーズ企画を展開中だ。
小林市をさまざまな角度から掘り下げるシリーズ記事の第8回に登場するのは、原田英男さん(62歳)。かつて農林水産省の職員だった時代に宮崎県小林市に赴任した経験があり、現在は大人のための社会塾の『宮崎こばやし熱中小学校』の校長先生を務めている。
『熱中小学校』といっても、義務教育の小学校ではなく、“もういちど、7歳の目で世界を…”というテーマのもと、廃校を活用して大人の学び舎とする取り組みだ。新しい地方創生のムーブメントとして高い注目を集めている。『熱中小学校』は月に1回開校し、そのたび原田さんは校長先生として東京から小林市へとやってくる。
小林市に赴任していたからこそ持っている内側の視点。東京から通ってくるから気づける外側の視点。その力強い視力で、校長の立場から未来の小林市を見つめている。
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廃校を利用した大人の学び舎『熱中小学校』とは?
cazual編集部(以下、c) 『熱中小学校』とは、そもそもどういうものですか?
原田さん(以下、原) 地方の人口が減少して、学校がどんどん廃校となっていくなかで、山形県の高畠町で、廃校を利用して地域おこしの活動をしたいという町の声が挙がったんです。
一方で、『熱中小学校』の仕掛け人である堀田一芙さんという、もともと日本IBMの常務だった方が、ライフワークとして地域おこしを応援する活動をやってたんです。特に東日本大震災の後、いまこそ地域おこしが大事なんじゃないかということで、昔のIBMの仲間のツテを手繰っていったとき、廃校を使って事業をしたいと考えていた高畠町と出会った。そこから「おもしろそうだね」ということで始まった取り組みです。
c 具体的にはどんな活動をしているんでしょう?
原 地方で起業するためのソフトウェアとして、社会人学校をやって人材育成をしています。地域おこしをするにしても、まずは人材がいなきゃものごとは動かない。そして、人材が育っても、そこで何かをできる場がなきゃできない。生活の場であったり仕事の場であったり。ネットの時代だけど、リアルな場所の確保は必要です。
c 人材育成と、起業のための場の提供をしているわけですね。
原 廃校を舞台としたのは、ハードウェアとして、起業に使えるようなシェアオフィスとしても活用するという流れからです。高畠町で始まった、この『熱中小学校』の取り組みを見て、「じゃあ、うちの地域でもやりたい」というような声が出てきて、各地に姉妹校がだんだん広がっていったんです。そのなかで、小林市でもスタートしたのが『宮崎こばやし熱中小学校』です。
c さまざまな第一人者を教師として招き、大人の生徒さんに対して授業をしていただく。それによって、人を発掘し、知恵を育てて、場所を提供するという循環なんですね。ところで原田さんと『熱中小学校』の関係は?
原 僕はもともと農林水産省で役人をやっていたんですけど、仕事で高畠町とのつながりがあったんです。仕事を辞めてからも、年に1回ぐらい講演などで呼ばれて高畠町に行ってました。
『熱中小学校』は地方での起業を目標にしている取り組みですが、地方での起業というと農業ははずせません。発起人の堀田さんが『熱中小学校』の教師陣を集めるなかで、畜産分野が専門である僕に声がかかったんです。
経験豊富な第一人者から生きた学びを得られる
企業経営者や大学教授、デザイナー、クリエイター、農家など「教師」たちが、自身の得意ジャンルを国語、算数など小学校の教科に見立て、大人の「生徒」たちに授業をする『熱中小学校』。経営哲学、最新技術、マーケティング、里山文化など、第一人者の経験に裏打ちされた濃い授業を通して、人と人をつなぎ、人の成長による地域おこしを目指している。
山形県高畠町で、この取り組みが始まったのは2015年10月だった。いまでは、北海道、福島、富山、東京都八丈島、徳島など、全国10地域で展開されている。
c 『熱中小学校』というネーミングは、何に由来してるんですか?
原 水谷豊さんが教師役を務めた『熱中時代』(編注:1978〜1981年放送、日本テレビ系)というテレビドラマが昔あったんですけど、高畠町の廃校はまさに、そのロケ地だったんです。それで“熱中”という言葉をいただいて、『熱中小学校』になりました。
c 高畠町の『熱中小学校』の教師を務めていた原田さんですが、小林市の『宮崎こばやし熱中小学校』では校長先生という役職です。小林市とはどんな縁があったんですか?
原 堀田さんは山形県高畠町の『熱中小学校』や、福島県会津で展開している姉妹校『會津熱中塾』で教えたり、熱中小学校グループの教師として各地をまわっていくなかで、次は九州でやりたいと考えていたんです。そこで堀田さんが小林市を訪れ、前市長とお会いしたときにFacebookで「今、小林市に来てます」って投稿したんですよ。
それを見て、「僕は以前に小林市に赴任していたこともあったし、家内も小林市出身なんですよ。よろしくお伝えください」ってコメントしたら、「だったら原田さんが校長をやればいいじゃない」っていう感じで話が進んでいったんです。
c 『熱中小学校』は普通の学校と一緒で、4月入学ですか?
原 入学は4月と10月で、1期を6か月としています。『宮崎こばやし熱中小学校』は、2017年の4月に開校して、2018年の春で3期目ですね。在校生もいますけど、期ごとに新入生を募集します。
c 入学の年齢制限はないんですか?
原 『宮崎こばやし熱中小学校』では、下は18歳からで上限はないです。ほかの地域の『熱中小学校』によっては15歳から入学できるところもあります。大人の学校なので、お金のことを学ぶのも重要なテーマ。授業料もいただきますので、それはちゃんと自分の稼いだお金で学んでいただくのです。
無料は無価値になりがち 価値ある学びを提供するには有料がいい
c 授業料はいくらなんですか?
原 1期6か月間に授業は6回開催されます。『宮崎こばやし熱中小学校』では、その6回で1万円です。1回あたり3時限の授業がありますから、全18時限で1万円。だから全部出席すれば、1時限の授業がほぼ500円です。地域によっては、2万円いただいているところもあります。
c 地域によって授業料が違うということですか?
原 1万円がベースです。それでも全然足りないので、補助金をいただきながら運営しています。
地方で開催される市民講座など、こういったスクールってけっこう無料が多いじゃないですか。でも無料って、無価値になってしまいがちなんですよね。だから、いくらでもいいんですけど、わかりやすく価値をつける必要がある。金額の大小ではなくて、お金を払って通う。そういう価値がある学びの場なんだよってことを示す意味の授業料です。
放課後は”焼酎”一貫校で飲みニケーション
ひょんなことから『宮崎こばやし熱中小学校』の校長先生となった原田さん。「IターンとかUターンとかで、刺激の多い街から来て、小林市ってなんかちょっと物足りないなとか、仲間ができないなとかいう方がいらっしゃるなら、ここに入ればすぐ仲間になれる」と言う。そこは学びの場であり、遊びの場でもある。さまざまな気づきが得られるのだ。
c 『宮崎こばやし熱中小学校』の教師陣は、どんな方が来られるんですか?
原 最初は堀田さんの人脈で集めたので、IBM関連、IT起業家とかコンピュータの関係者が多かったですね。ほかには音楽家、料理研究家、大学の先生たちとか。運営本部で教師陣を確保しています。今、『熱中小学校』は全国に10校あるんですけど、運営本部がそれぞれの学校から教師のリクエストを聞いて、教師のスケジュールを確認しながら配分しています。
ただ『宮崎こばやし熱中小学校』の場合は、九州の人だったり、僕の知人であったり、独自で教師を選ぶこともあります。教師役の方は講演料をもらえないんですけど、「お金ではなく名物の焼酎を出しますから」と言って来てもらってます(笑)。
c それは、小林市ならではの焼酎文化が関係してるんですか?
原 やっぱり、飲みニケーションって大事じゃないですか(笑)。焼酎と小中を掛けて、『宮崎こばやし熱中小学校』では授業が終わった放課後に“焼酎一貫校”を開催しています。
教師の方には遠くから来てもらって、授業までしていただいてノーギャラ。もちろん交通費はお支払いしていますけど、そんな不利益な条件の中で、自分も地域おこしの役に立ちたいとみんな思いを一緒にして来てくれます。そんな方たちに、なにかおもてなしがしたい。おもてなしをするなら、小林市なら地元の食材、焼酎で楽しんでいただこうということで“焼酎一貫校”と称して、先生も生徒も一緒に、放課後に一杯やりましょうよって感じで始めました。
自由参加なので、焼酎一貫校はみんな割り勘ですよ。開催場所も小林市内のお店を順繰りにまわっていく。『宮崎こばやし熱中小学校』の市内の方への宣伝と、“焼酎一貫校”でお店を使って、食材と焼酎の魅力を外に向けて発信していく。そんな目的もあります。今回は神奈川から2人、大阪から1人、福岡から1人、八代から1人、宮崎市からも何人かいましたからね。
c 生徒さんは小林市の人だけじゃないんですね。
原 はい。小林市民だけじゃないですね。九州に1ヶ所しかない『熱中小学校』なので、小林市だけでなく、九州全体の窓口になりたいっていう思いがあったんです。そうは言っても小林市の生徒さんが大体6割ぐらい。あと都城とか、西諸地域全体を入れるとおそらく8割ぐらいが地元なんです。3期目の今回は初めて九州外からも来られたようです。
c 徐々に活動が全国に浸透していっているんですね。
原 故郷とは関係ない場所だけど『熱中小学校』ってちょっと面白そうだなって思ってくれたり、全国どこの『熱中小学校』に入ってもいいなら『宮崎こばやし熱中小学校』がいいな、なんて感じで来てくれているようですね。
地元の”こんなもの”が大化けする時代 気づける目を養うのがポイント
c どこかの『熱中小学校』に入って、別の『熱中小学校』に通うみたいな留学制度はないんですか?
原 あります。それをパスポートと呼んでいます。生徒さんは、『熱中小学校』グループのどこの学校でも通えます。行けば、それが出席カウントになります。人によってはどこかの『熱中小学校』に所属して、グループ内をぐるぐるまわったり。あと、修学旅行もあるので、みんなで八丈島の『熱中小学校』に行ってみようとか。
修学旅行とか、行事のネーミングも小学校スタイルなんですよ。みなさん、学生時代に戻ったような感じで、学生を演じて楽しんでくださっています。『宮崎こばやし熱中小学校』独自の行事として、“大人の遠足”があります。
c ”大人の遠足”って、どういうところに行くんですか?
原 授業は毎月第3土曜日に実施しています。教師陣には小林市で一泊していただいて、放課後は“焼酎一貫校”という形で、土曜日の夜はみんなで飲む。その次の日曜日の過ごし方として、“遠足”を開催しています。“遠足”は生徒と教師を交えて、小林の魅力を発見しようという目論見です。
トマト農園に行ったり、霧島の麓にある神社に行ったり、そのときによって遠足コースはいろいろ。神社に行くのも単にパワースポット観光をしているのではなく、神職の方にそもそもの起源を教えてもらうなど、内容を大事にしています。教師陣に小林市を巡ってもらうと「こんないいところあるんだね」って、気づいてもらえます。
須木地区にある小野湖をボートでクルージングしたことがありました。滝の近くまで行ったとき、ある教師の方が「すごい! ここウォーターフロントじゃん」って言ったんですね。海のない小林市の生徒たちにはウォーターフロントという発想がもともとありませんから、「本当だ! ここウォーターフロントだよ」と地元の人にも新たな発見がありました。
c 大人の遠足では、地元の人にも発見と気づきがあるわけですね!
原 「ここだったら波もないから遊べるじゃん」って、外の人は気づく。長年、見てきた地元としては、「こんなもの」と思ってるものに実は価値がある。そういう時代じゃないですか。それを掘り起こして、生徒に発信してもらう。教師陣にも発信してもらう。それが『宮崎こばやし熱中小学校』独自で開催している“大人の遠足”の目的です。
『宮崎こばやし熱中小学校』の起業第1号とは?
生徒たちが自主的に立ち上げた生徒会。授業を行ったり、クラブ活動の起点となったり、さまざまな試みが行われている。『宮崎こばやし熱中小学校』の生徒たちは自発性が強いのが特徴だという。それは運営母体にも表れている。
原 正規の授業が始まる前に集まって、0時限の授業を生徒会で自主的にやっていて、テーマも生徒会で決めます。0時限の連絡はFacebookでするんですけど、やったことがない方もいます。なので、0時限目で生徒が生徒にFacebookの使い方を教えてあげることもしました。ほかにも、たとえばお茶屋さんを営んでいる生徒さんが、お茶のおいしい入れ方を授業で教えたり。
c クラブ活動などはないんですか?
原 生徒会の動きから生まれたのが、光画部というクラブ。写真の撮り方を学ぶ0時限の授業があったんですけど、写真好きが多くいたので、クラブを作って部活をしてみようって自発的に生まれました。彼らはネットにビデオや写真をどんどんアップしてくれます。だから、うちは全国にある『熱中小学校』の中でも、Facebookやホームページの更新率が高いんですよ。
c 生徒さんが自発的に始めたことで、ほかになにがありますか?
原 『宮崎こばやし熱中小学校』の特徴として、一般社団法人であるということも挙げられます。小林市の『熱中小学校』は、初年度は市の委託事業でした。委託ということは、つまり市が本来やるべき事業を誰かに任せてるということ。でも、いつまでも委託では、市の事業であって自立できませんよね。
それで、私も市のほうに「いつか委託でなく、補助に切り替えてください」とお願いをしていました。だけど、それには受け皿がいります。その受け皿は小林市の地元の方々がいいという話の中で、生徒さんたちが自発的に社団法人を作ったんです。社団法人の登記となれば、代表者がいて理事がいて、社員もいる。登記のお金も必要です。それを生徒さんみんなで出し合って、受け皿を作ってくれました。これは『宮崎こばやし熱中小学校』が誇るべきことだと思います。
c ほかの『熱中小学校』はそうではないんですか?
原 小林以外の地域では最初から社団法人やNPO法人が『熱中小学校』を立ち上げていますけど、ここは1年経って切り替えた生徒の法人なんです。ほかの『熱中小学校』では見られない動きでした。
c 『宮崎こばやし熱中小学校』は生徒の法人ってことは、原田さんは雇われ校長ってことですか?
原 そうそう。でもノーギャラなので、雇われてはいないんですけど(笑)。何にしたって、『宮崎こばやし熱中小学校』自体が『宮崎こばやし熱中小学校』での起業第1号なんです。株式会社ではないものの、社団法人を作ってこの『熱中小学校』を運営することができた。生徒でも起業ができたということが、また自信になっていくと。
あんな道もある、そんな道もある 方法はひとつではないと気づける場
c 校長として、今後『宮崎こばやし熱中小学校』をどのようにしていきたいですか?
原 生徒さんも着実に増えているけど、すごくコミュニケーションがとれている。これをもう少し広げていきたいです。多ければいいってもんじゃないと思いますけど、なにか始めてみたいという方が参加できる受け皿にしたいです。
それにはやっぱり人を育てることに尽きるかと思います。『宮崎こばやし熱中小学校』出身で、こんなこと始めましたみたいなね。それは商売じゃなくてもいいと思うんです。そういう方が増えていくといいなと。
もっと言うと、いつまでも『宮崎こばやし熱中小学校』にいるんじゃないよ。卒業しろよと。卒業してときどき遊びに来るのはいいけどさ、って。
c 卒業生が、お手本となるような教師として来てもらいですね。
原 そうそうそう! おっしゃるとおり。3期で卒業ということになっているから、『熱中小学校』に通って1年半で卒業です。
もちろんまた来てもいいんですけど、あえて卒業としているのは、そこからなにか始めてみたらどうですか? と、背中を押す意味でのひとつの区切りなんです。だから、どこの『熱中小学校』も3期で卒業としているんです。
c どんな方に入学してもらいたいですか?
原 なにかを今やりたいっていう、モヤモヤを持ってる人。持ってるんだけど機会がない。誰も背中を押してくれない。そういう人たちに来てもらいたいです。
だからと言って、ここに来たら起業できるわけでもない。簡単にはいきません。『宮崎こばやし熱中小学校』に通ったからといって資格を取れるわけでもない。でも、先生の授業を聞いて「あっそうか、そんな道もあるんだな。こんなやり方もあるんだな」っていうのがきっと見つけられると思います。
c モヤモヤっていうことは、目的が明確でなくてもいい?
原 そうです。誰もが明確な目的を持っているわけではないですからね。仕事を持っている人間だって、仕事以外の目的なんてフワッとしてるじゃないですか。「ここから出たいんだけど、どうしたらいいんだ」って、手を挙げている人を引っ張り上げる場が『熱中小学校』だと思います。
引っ張り出されても、必ずしもそこが心地いい場所ではないかもしれない。むしろ、中にいたほうが風もなく、暖かいかもしれない。
でも一歩外に踏み出せば、何かしらの発見がある。気づきがある。
『宮崎こばやし熱中小学校』には、特に地元の人たちでさえ見つけにくかった新しい価値を発見できる環境と、それを促してくれる人材が整っている。
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■プロフィール
原田 英男(はらだ ひでお)さん
1956年、東京都生まれ。北海道大学農学部を卒業後、農林省に入省。以来、畜産一筋。畜産部長まで勤め上げ、2015年に退省。一般財団法人畜産環境整備機構副理事長を務めるかたわら、『熱中小学校』の教師を担当。2017年には『宮崎こばやし熱中小学校』の校長に就任し、月イチで小林市に訪れている。
■施設インフォメーション
『宮崎こばやし熱中小学校』教室
住所 宮崎県小林市堤108-1(八幡原市民総合センター内)
TEL 0984-48-5558(事務局)
授業時間 13:00〜17:30を予定
授業実施日 原則として毎月第3土曜日
ホームページ http://www.necchu-kobayashi.com/
photo:ULALA
text:アマキン
【PROFILE/アマキン】
本業はクリエイター。アウトドアアクティビティ、DIY、クッキングを得意とすると豪語しながら、すべてはプロフェッショナルには遠く及ばない「素人にしては、まあ上手だな」程度のレベル。
構成:所 隼登
(本記事は宮崎県小林市と協働製作したスポンサードコンテンツです)