多種多様なアウトドアウェアから何を選ぶ?
アウトドアウェアにはさまざまな種類が存在します。ハードシェル、ソフトシェル、レインウェア、ウィンドブレーカー、インサレーションウェアなど、ざっと挙げただけでもこれだけあります。
ハードシェルとは
ハードシェルは防水、防風、防寒とマルチレイヤーの高性能ウェアで非常に耐候性に優れています。とてもタフな作りなので、破れにくいのも特徴です。
ソフトシェルとは
ソフトシェルは伸縮性が高く、防風、撥水性を備えていて、通気性が高いウェア。
レインウェア・ウィンドブレーカーとは
レインウェアは字のごとく、雨対策。主に防水機能に特化したウェア。
ウィンドブレーカーも字のごとく、風対策。主に防風機能に特化したウェア。
インサレーションウェアとは
インサレーションウェアとは、インサレート(insulate)=「遮断する」に由来するウェアで外気と体表面の間を遮断して、熱を逃がさないようにするミドルレイヤーのウェア。要するに保温が目的の防寒着のような存在です。
ソフトシェルの特徴や選び方を国際山岳ガイド・角谷道弘さんに聞いてみた
今回はソフトシェルについて深く掘り下げてみていこうと思います。というのも、ソフトシェルはどんなシチュエーションで着ればいいのかわからないという声を聞く機会が多いから。
そこで、ソフトシェルの特徴や使いどころについて、ホグロフスフレンドの国際山岳ガイド、角谷道弘さんに話を聞きに行ってみました。
角谷道弘さんプロフィール
1963年大阪府生まれ。1995年からプロの山岳ガイドとして独立。現在は、日本山岳ガイド協会認定ガイド、UIAGM国際山岳ガイド、フランス国家認定ガイド、国立登山研修所講師、日本プロガイド協会会長など多くの資格、肩書を持ち、角谷道弘ガイド事務所の代表としてエヴェレストを含む8,000メートル峰やアコンカグアなどの高峰のほか、四季折々の国内の山をガイドする山のスペシャリスト。
ほかのウェアにないソフトシェルの特徴は?
薄手のウェアというと、防風性や防水性という観点で考えれば、レインウェアやウィンドブレーカーがあります。ソフトシェルはどういうポイントで選ぶと良いのでしょうか。
「冬の時期ではハードシェルが活躍しますが、春から秋にかけては通気性が高く、よく伸びるソフトシェルがあると非常に重宝します。ハードシェルよりソフトシェルのほうが動きやすくてしなやか、カシャカシャしなくて使いやすいと思います」(以下、すべて角谷さん)
耐候性に優れていて、生地の厚みもあるハードシェルは雨、風などさまざまな気象条件に耐えることができますが、そのぶん生地が硬く体の動きを制限してしまう面もあります。その点、伸縮性に優れ、軽量なソフトシェルは春から初秋にかけて、行動着として幅広く使用できます。
「たとえば、アイスクライミングやロッククライミングのときは動きやすいほうがいいので、ハードシェルよりソフトシェルをおすすめします」
もちろん、雨が降っていったり、風が強かったり、厳しい天候においては、激しく動くからといってソフトシェルがいいというわけではありません。ウェアを選ぶときは、まずは天気をチェックして、最適なウェアを考えましょう。
ソフトシェルがあると山での選択肢がグッと広がる
山に行くときはどういう装備で行くか、非常に重要です。最小限の装備で行こうという人、多少は重さに目をつぶっても快適性を求めて装備をそろえる人、スタイルはさまざまです。
「結局、持って行くものをどう選ぶかだと思います。夏であれば、最小限の荷物にしようと思えば、極端なことを言うとアウターは雨具(レインウェア)で防寒も防風もなんとかカバーできます。でも、もっと快適に行こうと思えば、そこにプラスしてソフトシェルがあると便利だと思います」
天気が変わりやすく、高温多湿の日本。雨対策は一年じゅう必須です。気温が上がる春から夏にかけては、ハードシェルでは雨は防げてもどうしても蒸れてしまいます。そんなときは薄手のレインウェアがあると便利です。それでも生地のつっぱり感があったり、通気性という面でいうとソフトシェルに軍配が上がります。それに、ソフトシェルは伸縮性が高いので、着心地の悪さを感じることがほとんどありません。
「ソフトシェルも最近は種類がすごく増えています。薄くて軽い生地のものから分厚くて耐久性のあるタイプ、フードがついているかいないかとか、ファスナーがどれくらいついているかとか、いろんなポイントがあります。ソフトシェルとひと口に言っても、その中でどれを選ぶかを考えなくてはいけません」
教科書的には登山装備でハードシェルやレインウェアがまずは必要ですが、天気をチェックして雨の可能性がない場合は、防水性の高いソフトシェルだけで山に行くのもありでしょう。
5月以降、湿気も徐々に高くなっていくので、通気性は重視したいポイントです。ソフトシェルは汗っかきの人に特におすすめと言えます。風が強いときにTシャツの上にレインウェアやウィンドブレーカーを羽織ると、運運動量が多いと汗で蒸れて、生地が張りついて不快なことも。一般的に、ソフトシェルはある程度の防風性がありながらも蒸れにくい作りになっています。そういうときにソフトシェルの出番なのです。
ゴールデンウィーク・初夏ごろの山での服装は?
「ゴールデンウィークの時期の山は雪と雨のちょうど境目の時期です。何を着ていくか悩むんですよ。雨ならどうしても雨具をつけなければいけないのがソフトシェルの弱点といえば弱点ですが、その代わりに動きやすいというのがソフトシェルの良いところになります。
天気が悪かったらゴールデンウィークごろの山は気温が下がることもあるので冬山用のハードシェルにしてしまいますし、天気がよくて風も弱いとウールの下着だけでも暑いときもあります。非常に悩ましいんですが、ガイドをしているとき荷物を軽くしたいお客様は、間をとって、レインウェアのようなシングルレイヤーの服を持ってきて軽くする方がいます。もちろんほかにも薄いダウンジャケットなども持ってくるんですけど、そこにソフトシェルも選択肢の1つとしてあるかなと思います。寒かったら、雨具にソフトシェルを重ねて防寒・防風にする、という考え方です」
ソフトシェルの特徴として冒頭にもあげましたが、防風、撥水というものがあります。
「ソフトシェルの中でもレインウェア寄りというか、ウィンドブレーカー寄りというか、昔の製品に比べると、どんどん撥水性能が良くなっていって、雨具の領域もカバーできるようになりつつあります」
天気予報を見て、晴れという前提であれば、ソフトシェルで防水性が高いものをレインウェア代わりに持って行くのもいいです。
夏山でソフトシェルが重宝される理由 夜露対策に便利
続いて、雨以外に夏山でソフトシェルが活躍するシチュエーションについて角谷さんに教えてもらいました。
「夏山では早朝の出だしが寒いのですが、そのときにレインウェアを着ていくのか、フリースか、それとも半袖のまま頑張るかっていう選択肢が出てきます。そういう装備の中にソフトシェルがあれば、防寒にも防風にもなって、もっと使いようがあると思います。例えば、夏だからTシャツで登っているけど日焼けも気になるケースとか、他にも朝だけ寒いとか。ソフトシェルは蒸れにくいので行動中に着るのにちょうど良い」
ほかにも、山特有のシチュエーションにも重宝するという。
「朝一番で上がっていこうとすると、ハイマツの林やブッシュの中を行くときには夜露で濡れてしまったりもします。雨具があれば濡れないんですけど、反対に蒸れてします。ソフトシェルはそういうときに使いやすいと思います」
夏山の天気は変わりやすいので、朝は晴れていても午後になったら曇ったり雨が降ったり気温が下がることもしばしば。やはり、そんなときでもソフトシェルを持っていると重宝します。風雨にさらされるような状況ではソフトシェルの撥水性は頼りないが、パラパラとした小雨だったり、林のなかで雨をしのぐような場合は、ソフトシェルでも対応できることも多いそうです。
ソフトシェル最初の一着はどういうタイプがいいの?
ソフトシェルでも軽量性を求めたタイプ、耐候性を求めたタイプなど、さまざまあります。生地を触ると厚さが異なるので、そういった点も比較の際のポイントとするといいでしょう。初めの1着と選ぶときには、どういうタイプを選べばいいのでしょうか。
「薄手すぎるとウィンドブレーカーのようになって使える場面が限られてきます。汎用性という点で見れば、少し厚いものを選ぶといいでしょう。重くなったりかさばったりするのは嫌と思われるかもしれませんが、たたんでしまえばかなり小さくなるので、そんなに気にならないと思いますよ」
また、標高が高いと気温が低くなり、稜線に出ると風が出てきます。そういうときの使い分けとして、頭までフードで覆って防寒対策をしたり、逆にフードなしのものにしてヘルメットをかぶったり、用途に合わせて選ぶようにしましょう。フードなしのものであれば、春から初夏の時期はアウターとして使えて、寒い時期はミッドレイヤーとして上にさらに着込むこともできます。
ソフトシェルの撥水性を保つメンテナンス術
撥水性をキープするコツ知りたいですよね?
メンテナンス方法についてホグロフスの榎本憲さんに教えてもらいました。
「中性洗剤で洗ってください。手洗いではなくて洗濯機に入れていただいて大丈夫です。漂白剤入りの洗剤は撥水加工を取ってしまうのでNGです。
撥水加工というのは生地の表面の繊維が立ち上がっていて、それにより水分を弾いてくれます。しかし、汚れるとこの繊維が寝てしまった撥水性能が落ちてしまうのです。その繊維が洗うことによってまた立ち上がり、撥水機能が戻るのです。
それでも、やっぱり皮脂などの油で機能が落ちてしまうので、洗い終わったら撥水スプレーだったり、付け置きの撥水剤だったりをつけると浸透しにくくなりますよ」
中性洗剤で洗うのは、ゴアテックスなどのハードシェルのウェアについての基本は同じだそうです。撥水機能が落ちてきたなと感じたら、一度、洗ってみてはいかがでしょうか?
まとめ:ソフトシェルは撥水性、通気性、伸縮性があり、着続けて行動できるウェア
今回、角谷さんの話を聞いて、ソフトシェルはかなり汎用性が高いウェアだと感じました。ポイントは撥水性と蒸れにくさ、伸縮性の高さ。山だけでなく、自転車やボルダリング、クライミングなど、行動量が多い場面でソフトシェルは使えます。
ハードシェルは防水、防風に強いぶん、蒸れてしまいますが、ソフトシェルは着続けて行動することができるのが最大の特長です。
また、アウトドアシチュエーションだけでなく、春から初夏にかけてのタウンユースとしてもソフトシェルはかなり有効だと思います。シャツ一枚での日中は過ごせるけど朝晩は肌寒かったり、梅雨時期の湿度が高い雨の日など、撥水性がありつつ通気性が高いソフトシェルはうってつけ。街場でのレインウェアとしての選択肢に入れるのもアリかなと個人的には思いました。
text:george
【PROFILE/george】
茨城県東海村出身の32歳。インテリア雑誌、週刊誌、書籍、ムックの編集を経て、現在Webディレクター。4年前の朝霧ジャムに行って以来、アウトドアにハマる。テントはMSRのエリクサー3、タープはZEROGRAM。車を持っていないので、キャンプに行くときは知人の車に相乗りが常。なので、基本の装備は「軽くコンパクトに、友人の負担にならないこと」が信条。