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外房で海があるライフスタイルに適した物件をプロデュース
関東のサーフポイントとして人気の高い千葉県一宮町で、サーファーを対象に不動産の提案を提案している波乗不動産。その代表取締役を務めるのが佐々木 真さんだ。後編では佐々木さんに東日本大震災以降の心境と仕事の変化について話を聞いた。
東日本大震災が転機 あらためてサーファーにフォーカスしたサービスを
現在、波乗不動産の1階はカフェになっているが、当時は1階をオフィスとして貸出し、2階でウェブクリエイターとともに仕事をしていたのだ。参考にしたいのは佐々木さんの働き方。ずっと2階の事務所で来客を待つのではなく、アポイント制にすることで、興味のあったフレックスな働き方に上手に移行したそうだ。
さらに、プロジェクトが舞い込むなか、佐々木さんはR不動産とともに立ち上げた房総R不動産の代表を3年務めていた。R不動産は、ウェブを通じてユニークな不動産を紹介することで知られており、東京を皮切りに日本各地にネットワークを広げている。
順風満帆に思えた矢先、東日本大震災が発生した。このとき、佐々木さんは雑誌『ソトコト』に取材されるなど、エコやサスティナブルといった時代のキーワードを切り口にした不動産事業に一宮エリアで取り組み始めたばかり。
「一宮で物件を探していたエコやサスティナブルなライフスタイルに関心が高い人たちは、みんなほかの地域へと流れていってしまいました。恐ろしい津波の映像を見たのですから、海沿いを避けるのも無理ありません。すでに外房エリアに移住していたエコに関心のある人たちの引っ越しもありましたね。震災直後の2~3か月はお客さんが来なくなるだけでなく、社員が辞めて他の地域へ引っ越すなど、いろいろなことがありました」
−大きな転換期ですね。
「震災で自分のベクトルが完全に変わりました。そんなときです。久しぶりにサーファーの方から物件を探していると問い合わせをもらいました。サーファーが戻ってきたのです。私はR不動産との取り組みを終了し、自分たちのプロジェクトとして『波乗不動産』を2012年に正式にスタートさせました。
プロジェクトが広がるなか、いろいろな方向に進みかけたものの、やはり自分に正直に生きたい。お客さんも自分もサーファーだと再認識しました。原点に立ち戻り、サーフィンが好きな人に向けた物件に絞ろうと決めました。やっぱり、私にとっては仲間意識もマインドもサーファーなんですよね」
間口を広げるのではなく、こだわりをより深く
「今こそ波乗不動産の目標を突きつめて、町にコンセプチュアルな建物を作っていきたいですね」と佐々木さん。転換期を迎えてからの佐々木さんの提案は、よりシンプルに本質に迫るものになった。間口を広げるのではなく、デザインやディテールにもこだわってより深く、自分の得意なものを提案したいのだそうだ。
たとえば、波乗不動産の事務所1階のカフェもその一例。オーナーはプロサーファーの吉川共久さんで、日の出とともに店がオープンする。海外ではサーファーのために、こうしたコーヒーショップは珍しくないと佐々木さんは言う。
−現在のお客さんはどういった方が多いですか?
「震災から1年くらいかけて、お客さんがまた集まるようになりました。そしてお客さんの層も大きく変わったと感じます。現在のお客さんの年齢は20歳代後半から60歳代くらい。家族だったりカップルだったりと幅広い。いま、私たちが扱う物件は約10万円の家賃を想定しています。このくらいの金額なら、20歳代から30歳代前半の若いサラリーマンの方でも3人でシェアすればそれほど負担にならないでしょう。
また、30歳代から40歳代くらいで成功した方が法人で借りるケースもあります。士業の方も多いですよ。ほとんどのお客さんは東京の方で、休日の楽しみ方を知っている人ばかり。移住というよりは、賃貸の8割の方はセカンドハウスとして使っています」
海の近くでリラックスしたライフスタイルを送れる物件を提供したい
−どんなこだわりや狙いがありますか?
「リラックスできるかどうかがポイントです。東京のマンションとの対比も意識しています。たとえば木の温もりが感じられるか? 天井が吹き抜けているか? といった点も意識しています。みなさん、ボードの置き場に困っているし、東京のストレージに置けないものを置いている方が多いですね。いまは世の中にこうした物件の数が少ないのが実情です。
私たちは現在、賃貸と売買を合わせて80~100世帯ほどを扱っています。しかし、自分たちでゼロから企画した物件しか扱っていません。地権者や業者からの相談は多いですよ。でも、なにか自分の気持ちに刺さるものがないと取り組まないことにしています」
具体的に佐々木さんの興味を引く物件について尋ねてみた。賃貸ならばデザインから自分たちが関わることができること。売買なら波乗不動産の専売物件で、ビーチフロントなど条件に納得できるもの。さらに基本的に物件はサーフポイントの入り口に作られている。
「ユーザーと不動産業者の視点が同じなんです」と佐々木さん。当事者だからこそ、お客さんの気持ちが理解できるし、最適な提案もできるわけだ。
自分の好きなものを、価値観が共有できる人に向けて発信する。佐々木さんの個性的な生き方とローカルの結びつきは、地方での生活やデュアルライフを考えている方には、大いに参考になるのではないだろうか。
取材・文/川田剛史
波乗不動産ホームページ http://www.naminori-jpn.com/