前回の記事はこちら>>
福井県大野市にUターン移住をして、現在はデザイナー・映像作家として活動をしている「ホオズキ舎」長谷川和俊さん(33歳)。今回は、仕事のこと、大野市の持つポテンシャルのこと、大野市の自然について話を聞いた。
大野市でデザインで食べていこうと決意
フェスカルチャーやアウトドアが好きだったことから、地元・大野で野外フェスを企画。2010年、2011年と開催し、2回目では1万人以上の動員を集めた。野外フェスの企画をしている合間にも、細々とではあるがデザインの仕事は引き受けていた長谷川さん。フェスの企画立案、運営まで必死で活動した結果、フェスへのモチベーションは燃え尽きてしまった。しかし、“大野市のために何かしたい!”という思いは消えずに持ち続けていた。
そこで27歳のとき、「大野市でデザインで食べていこう」と決意し、フェスで培った人脈から仕事をもらい、デザイナーとして活動を本格化させた。デザインとひと口に言っても仕事は多岐に渡る。映像とデザインが主だが、フリーペーパーの発行、コミュニティスペースの運営、大野市のドキュメンタリー映像やイベント映像、結婚式のプロデュースなども行っている。
デザインの力で隠れた魅力にスポットライトを当てる
そして29歳のときに事務所「ホオズキ舎」を立ち上げた。大野市のUターン促進プロジェクトのひとつであるウェブサイト『大野大人図鑑』で事務所名の由来を次のように語っている。
「ホオズキは英語で“lantern plant”。明かりを灯す、暗闇を照らすランタン。僕にとってのデザインは“照らす”ことです。すぐそこに素敵なものがあるのに、闇にまぎれて誰も気づかない。自分のデザインやアイデアの力で、そんなものたちにスポットライトを当てられるような存在になろう。そして人の心にも、ポッとあたたかい光を灯していこう。そんな想いで、この名前にしました」
事務所も自身の手でリノベーションした。元は喫茶店だったそうだが、空き家となり選挙事務所などでも使われていた物件だという。
「半年間ほど物件を探していて、人づてに紹介してもらいました。ここを見た瞬間に『ここだ!』と決めました。作りが変わっていて面白かったんです。梁はそのままですが、床やカウンターは全部手作り。改装は大変で、全部自分たちだけでやったので半年くらいかかりました」
事務所の棚にはお酒のボトルがズラリと並ぶ。
「お酒好きなんです。『こんなところで仕事できるんか?』ってよく言われますね(笑)。たまに友達が来て、バーみたいになることも」
水のよさが大野市の自然の魅力
「大野市はデザインされていないものが多く、光の当て方を変えると輝く素材が豊富にあり、伸びしろを感じている」という長谷川さんに、そんな大野市の自然の魅力について聞いてみた。
「大野市の自然を考えると、いちばんは水がいいことが挙げられます。さまざまな根源となる水がいいというのは、すごく伸びしろを感じます。水はいろいろなものにつながりますし、もちろん食もそう。人の暮らしの根源にあるものですから、その水がいいのは魅力的です。そういう意味で、大野市以上の場所はないなって思っています」
自然豊かな大野市では、スキー、キャンプ、バーベキュー、釣りなど、さまざまなアウトドアアクティビティが楽しめるという。
「渓流でイワナがメインで釣れますね。あと、アユもめちゃくちゃいますし、市外からも釣り客がバンバン来ます。大野で人を集めているアウトドアアクティビティっていうと、釣りかスキーですかね。川に釣り場がたくさんあります。僕も釣りはしますけど、いわゆる釣り好きというのとはちょっと違うんですよね。
川が本当に身近なので、こっちの子にとって釣りは川遊びなんですよ。大人になってからは川に入る機会は少ないですけど、あらためて見るとめっちゃきれいだと感じます。なので、川に入るんやったら、ついでに釣り竿でも振ろうかなみたいな。川に入りたいという思いが先にあるで、釣りをしに行っても、釣らないで川辺でぼおっとしている日もあります。もう気持ちよすぎてしまって(笑)」
切っても切り離せない雪と大野市の関係
水の恩恵を受けている大野市だが、その水は特有の地形に由来する。四方を山に囲まれた盆地に位置し、特別豪雪地帯に指定されるほど雪深い土地だ。山々に積もった雪が地中に染み込み、市内のいたるところで湧き出している。大野で暮らすうえで、水と雪は切っても切り離せない存在なのだ。
「降って当たり前ですから、いまさら大野の人間は雪のことはあまり何も言いません。むしろ雪が降って安心という気持ちを持っているかもしれない。雪景色ってめっちゃきれいですし、雪由来の自然環境って大事ですから。豊かな水につながりますからね」
雪解け水は大野の暮らしを助けているのだ。清水(しょうず)と呼ばれる湧水池が市内には30箇所以上もあり、昔から、飲用だけでなく、食材を洗ったり、洗濯に使ったり、暮らしと密接に関わっている。
田舎暮らしはある意味で最先端のライフスタイル
「雪が降ったら家に閉じこもっていればいい(笑)。例えば東京なんかは、インフラに頼りすぎているので、雪が災害として扱われていますけど、昔の暮らしを思い出せば、家に閉じこもっていても暮らせるように生活していたわけじゃないですか」
雪がたいへんだったら室内でできることをして過ごす。少し前までは、当たり前の暮らしだったはずだ。いわゆる田舎の暮らしだが、この田舎の暮らしはある意味で最先端だと注目を集めている。というのも、現代は、なんでもできすぎるし、なんでもありすぎる。テクノロジーがない時代の暮らしは、知恵で乗り越え、環境への負荷も少なかった。そういう意味では、田舎暮らしは、逆にポテンシャルが高いのではないだろうか。
長谷川さんも伝統的な大野の暮らしに注目している。
「大野でも中心市街地はお金もかけて、観光PRをされています。その一方、郊外にはあまり目が向けられていないなと感じているんです。僕としては、大野の本当の魅力は郊外にあると思っている。土着的な暮らしぶりが素敵なので、広めるというよりはそれを守っていきたい。そういった暮らし自体を、同じ大野でも中心市街地の人間はあまり知らないんですよ。中心市街地と郊外とのリンクがないので、僕としてはそこを強めていきたい」
郊外の暮らしをまとめたフリーペーパーを創刊
大野市は福井県内でいちばんの面積を誇る大きな街だ。郊外にはたくさんの集落があり、その集落ごとにいろいろな文化があるという。
「伝統的な祭りだったり、食にしても保存食文化だったり、農業なども含めて、誇れるものはたくさんあります。僕も調べきれていないくらいです」
そういった大野の暮らしや文化を再発見するフリーペーパー『STOCK』を作成している。
「フリーペーパーで郊外の暮らしの様子を紹介しています。自費出版でやっているプロジェクトです。昨年の12月に創刊しました。SNSやウェブではなく、あえて紙で作ることで手に取って保存してもらうという狙いを持っています。まだまだ内容も少ないのですが、どんどんボリューミーにしていきたいです。いずれは半年に1冊のペースで出したいです。取材したい人や素材はたくさんあるので」
そういった土着の暮らしを大野市のなかで広く知ってもらいたいのだという。中心市街と郊外、街と山の交流を促すことが長谷川さんのテーマのひとつだ。フリーペーパー以外にも多角的に活動を進めている。
さまざまな交流の核にしたいとコミュニティスペースを運営
「市街地の中心にコミュニティスペース『SONOU』をつくりました。そこから発信していきたいなと思っています。『SONOU』をオープンさせたのが2016年の5月です」
近年、大野市には若手によるさまざまなショップがオープンしているという。そういった勢いを加速させるべく、交流の核となる空間を立ち上げた。
以前に取材した長崎県平戸市にUターン移住をした力武秀樹さん(記事はこちら)も、若手が集まって交流できる場所がないことからカフェを開いた。カフェを通じてさまざまなイベントを企画したり、出会いができたことで、いまでは地域の街づくりにも関わっている。
個々ではなく、連帯して大きな動きを目指すには核となる場所が必要だと思う。人とつながる、地域とつながる、そういった目的を持つ空間が地域にあれば、街をよくしていきたいという思いを持つ地元民と移住者が交わりやすくなる。そういった交流が地域を元気にしていくうえでは欠かせない。
地方創生の動きはここ数年で加速している
フリーペーパーの取材先を探すのにもコミュニティスペースが役に立っている。
「取材先は人のつながりで見つけることが多いです。SNSを介してネタを拾うこともありますけど、知人に『こんな人いるよ』とか、コミュニティスペースで出会った人とか、そういう人のつながりから見つけるのがいちばん多いかな。交流できる場があるからこそ進んでいる気がします」
『SONOU』ができるまで、大野市ではそういう交流を促す場所はなかったのだろうか。
「少しはありましたけど、ここ数年で加速しています。“地方創生”が言われ始めたあたりから、やっぱりアンテナを張る人が増えてきたという感じ」
長谷川さんのように大野市を盛り上げよう、大野市のために何かしたいと思って活動している人はどのくらいいるのだろうか。
「コミュニティースペースが入っているビルに関わっている
活動している人は大野でずっと暮らしてきた人が多く、UターンやIターンの人もいるが、移住者はまだまだ少ないそうだ。どういう人を巻き込んでいくのか、地元の人と移住者をどう融合させるのか、それが鍵だ。
vol.3に続く
【福井県大野市に関する記事はこちら】
【福井県大野市】”名水のまち”ならではの国際支援 水を軸に誇りを取り戻す地域創生プロジェクト
【福井県大野市】一生に一度は行きたい絶景!”天空の城”越前大野城
大野市移住ライフ・尼さんになりたかったヨガインストラクター 斉藤アイさん
text:george
【PROFILE/george】
茨城県東海村出身の32歳。インテリア雑誌、週刊誌、書籍、ムックの編集を経て、現在Webディレクター。4年前の朝霧ジャムに行って以来、アウトドアにハマる。テントはMSRのエリクサー3、タープはZEROGRAM。車を持っていないので、キャンプに行くときは知人の車に相乗りが常。なので、基本の装備は「軽くコンパクトに、友人の負担にならないこと」が信条