移住までの経緯をまとめたvol.1はこちら
福井県東部に位置する大野市は四方を山に囲まれた盆地で、特別豪雪地帯にも指定されている雪深い地域だ。雪解け水が豊富に湧き出すことから“水の町”として名高い。
そんな大野市に移住してきた斉藤アイさん(35歳)の移住物語。岡山県で生まれ育ち、高校を卒業し上京。ミュージカル女優として活動するかたわらヨガと出会い、ヨガインスタラクターの道へ。一時期、沖縄での生活を経験したあと、ふたたび東京で生活。2012年に大野市に移住してきた。
縁もゆかりもなかった福井県大野市
友達を訪ねてたまたま遊びに来た大野市。友達がボランティアをしていた宝慶寺の住職さんに「尼さんになりたい」と相談したところ、「尼さんもいいけど結婚する道もあるのでは?」と諭され、“いい人”をすすめられた。その”いい人”とはなんとお坊さん。
結婚を決め、大野市に移住してきたアイさんだが、縁もゆかりもない土地での生活はどうだったのだろうか。
「旦那さんは修行を終えて、宝慶寺で準役寮という役職についていたんです。彼も埼玉出身なので福井に縁は特にありませんでした。お坊さんになって福井で修行をしていたというだけ」
現在は宝慶寺と同じ大野市内にある光徳寺の住職をされている。
「今のお寺に縁があったわけではありません。光徳寺の前のご住職さんが倒れられて、跡継ぎがいなくて、跡継ぎを探していたようです。そのとき宝慶寺で修行していたのが旦那さん。修行経験も十分あって、年齢もちょうどよかったので、住職に推薦されたみたいです」
初めての土地でお寺の奥さんになる
夫婦ともども、光徳寺がある大野市木ノ本(このもと)地区は初めての土地だった。初めての土地、お寺という特殊な環境、さぞ大変だっただろう。
「初めは大変でした。大野市のなかでも木ノ本は古い土地だから、昔からここに住んでいる人たちばかり。そのなかに、縁もゆかりもない2人が入ってきたわけですから、最初はちょっとしたことでも影で言われたり(笑)。しかも、影で言われているよというのを誰かが教えてくれる(笑)」
最初のうちはしんどかったそうだが、4年も住んでいたら慣れたと明るく笑うアイさん。「たぶん、みなさんが諦めたんじゃないですかね(笑)。こういう人たちなんだと理解してくれたんだと思います。それに、土地の行事がいっぱい残っているので、そういうのに顔を出す。お寺なので出ざるを得ない部分もありますが、そういうふうに一緒に何かをすることで仲間として見てくれるようになったのかなと思います」
見られていることに戸惑い
古い土地柄ゆえの近所付き合いに移住直後は戸惑ったという。
「いろいろ見られているんだなと戸惑いました。例えば、雪かき。初めてしたときは死にそうな思いをしました。全身が震えちゃって、もう一生したくないって思ったんです。それでも雪は絶え間なく降り積もるわけです。もう疲れて玄関先の歩くところだけやっていたら、『お寺さんなんだから全部やらんとあかんやろ。みんな来たときに車が停められるようにしとかないとあかん』って隣のおばちゃんに言われちゃって(笑)。
私たちはよそ者で、しかもお寺という特殊な環境。なおかつここは田舎なので、地方とはいえ、街とはまたちょっと違うかなと思います。またこの木ノ本っていう土地は歴史がかなりある土地らしいです。大野の中でも発祥の地と言われています。江戸末期には天狗党が滞在したそうです」
いただきものは旬の食材がどっさり
由緒ある土地で、コミュニティの中心ともなるお寺に飛び込むことになったアイさん。濃い近所付き合いは戸惑いもあるが、よいことも多いという。
「旬の食材がたくさんいただけるのはありがたいです。野菜だけじゃなくて、山菜とかももらいます。野生のなめこなんて、大野に来て初めて見ました。みなさん持ってきてくださるんです。自分では採りにいけないので本当にありがたいですね」
東京で暮らしているときから食に関心が高かったが、大野市に移住してから、食生活はどのように変化したのだろうか。
「白いご飯をしっかり食べるようになりました。お米もたくさんもらうので、お米を買わなくなったので、食費はかなり助かっています。それと食生活は野菜が中心になりましたね」
新鮮な地場の食材が手に入るのは喜びだが、お寺ゆえの苦労も教えてくれた。
「野菜が一気にくるところですかね。大根が一気に50本、白菜が30束とか。お寺ということもあってたくさんくださるのですが、どこに置こうって、ちょっと悩む(笑)。泥付きのまま来るので、それを処理するのも一日がかりで。大根は半分以上は干して漬物にするのが毎年の恒例になっています。ここらへんはみんな干します。
保存食の作り方は大野に来てから、近所の方たちにいろいろ教えてもらいました。とはいっても、1から全部というわけではないんですけど、大根の葉っぱをわらで結んで干す方法とか。でも何日間干すとか、そのあとどうやって漬物にするかとかは自分で調べました。なんとか消費しようっていう(笑)」
東京の暮らしと違うポイントはどこ?
ふだんの生活で東京の暮らしと大野の暮らしで勝手が違うと感じることはどういうときだろうか。
「こっちはなんにせよ車移動ということですかね。私、車の免許を持っていなくてこっちでとったんです。なにかと勝手が違くて大変でした。東京だと歩けば地下鉄があって、コンビニもあるじゃないですか。でもこっちだとコンビニもそうそうないし、歩いても歩いても田んぼ(笑)。結婚初期のころはよくケンカをしていて、私、家を飛び出したんですよ。東京だとちょっと店とか入れますけど、こっちはそういうのがなくて歩いても歩いても山が見えて田んぼが見えて、結局30分で家に帰りました」
アイさんは2016年にお子さんを出産。初めての育児に奮闘中だ。学校や病院など、子育て中のママという立場から見た、大野市の生活インフラの整備状況について印象を聞いた。
「子どもが産まれて1年経っていないので、学校についてはまだあまり深く考えたことはないですね。病院については、出産できる病院が大野市内にないのは、『あぁ、残念……』と思いました。ここのママは出産はみんな福井市に行ってするみたいです。私も陣痛が来てから行きました。車だといちばん近い病院でも45分かかります。町の人はみんなそうしていると聞いて、強いなって思いました。でもやっぱり1軒くらいあったら助かると思います」
大野の自然環境は子どもにとっては最高
病院は、子育て世代にとってはちょっとネックなポイントかもしれない。それでも、子育てをするうえで、大野の自然環境はマイナスポイントを補って余りある魅力だと感じているという。
「ありがたいと思っています。私の実家は岡山ですけど、出産を大野でしようと思ったのも、妊娠中に近所を散歩しても排気ガスがなくて本当に空気がきれいだからです。出産した後も、お散歩するにはいい場所だとも思いました。これから子どもが大きくなって自分で歩けるようになっても、遊べる場所がいっぱいありますから。のびのび遊べるのは、子どもにとっても、私にとっても素敵な環境だと思っています」
大野の魅力はなんといっても山にある。雪を降らせる要因でもあるが、さまざまな自然の恵みをもたらしてくれる。
「いたるところで山菜が採れますし、それをすぐ食べられます。雪解け水はすごくおいしい。お茶にしても味が違いますし、肌がきれいになりました。あとは目の保養にもなる。車で走っているだけでも山の景色やら空の景色がきれいで癒やされます。ほっとしますね」
【vol.3に続く】
移住後、ヨガインストラクターとして福井県大野市でも活躍している斉藤アイさん。次回は、大野市でのヨガライフについてまとめます。お楽しみに。
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