福江島での暮らしぶり、地域コミュニティへの入り方についてまとめたvol.3はこちらから
隈本耕一郎さんは2015年5月に福岡から夫婦で長崎県五島市の福江島に移住してきました。仕事はアウトドアガイドとタコスの移動販売がメインで、冬になると久留米に酒造りに出かけます。4回目となる今回は、福江島を盛り上げるためのアイデアについて聞きしました。
福江島の杜氏集団を復活させたい
カヌーやSUPなどアウトドアのガイドとタコスの移動販売をして、冬になると久留米の酒蔵へ3〜4ヶ月間へ働きにいっている隈本さん。自身の移住スタイルについて「”腰掛けIターン”のような感じ」と言う。しかし、そんな隈本さんだからこそひらめいたアイデアもある。
「働いている久留米の酒蔵の人に聞いたんですけど、昔、五島列島には杜氏集団がいたみたい。農閑期で漁にも出られない地区の長が杜氏となって、島の若手を10人くらい連れて酒蔵に行っていたそうです。これを、ゆくゆく復活できたら面白いと思ったんです」
将来の展望について話す隈本さんはワクワクしっぱなしだ。
ほかにもアイデアは次々と出てくる。移住を検討している人には自身の“腰掛けIターン”スタイルをすすめる。
「働き方は人それぞれだけど、例えば2か月だけ五島にいるという形でもいいんじゃないかな。役所の認可が降りるかは別として、受け入れる側としては、田舎には空き家はいっぱいあるのでそこを貸せばいいと思うんですよ。実際には、荷物を置いてあるから貸し出せないとか、事情はあるみたいですけど、それなら荷物を預けるトランクルームみたいなものを作って荷物はそこに移してしまえばいい」
家は人がいなくなると急に荒れ出すともいう。住宅のメンテナンスという意味でも有効なアイデアに思える。
旅行者以上、移住者未満 “やどかり的移住”の発想
「2か月ごとに暮らすのであれば、6世帯集めれば1年間埋まります。食器とか布団とか、自分の荷物を預けて収納しておくスペースはたくさんあるので、うまくそういうシステムができたらいいなと思う。それができれば、極力、“お客様”にならずに島に住めるじゃないですか」
いわば、毎年、一定期間だけその街で暮らす、“やどかり的移住”と言ったところだろうか。土地に縁ができて、気軽に行ける街があるのはとても魅力的だ。そういう拠点をいま住んでいる地域以外に持つ人が増えれば、人の移動も活発になり、地方も盛り上がるだろう。
「福江島にある世界遺産候補の江上天主堂の横なんて、古民家が家賃5,000円ですよ。そういう家が3軒くらいあって、横に廃校になった小学校もある。そういう空いたところを使えば、旅費以外の負担は少なく暮らせます。そこに来てもらって、あとは僕みたいな移住者がコミュニティの中に紹介していって、ゆるやかに地域に入ってもらえばいい。旅行者じゃわからない、でも住むまでしなくてもいい、そういう“間(あいだ)”の部分でいいんです。もっと気軽にできるでしょう」
旅行者以上、移住者未満の距離感で地方で入っていく、そんなゆるいスタイルがあっても面白い。そこでの暮らしがハマれば本格的に移住となるだろうし、 “やどかり移住”のままであっても、定期的にコミュニティと交われば、交流人口や関係人口が増え、人口減少に悩む自治体にとっても、プラスになることは少なくないと思う。
町おこしのために町内放送をジャック!?
モモナシというベースと歌のユニットの東京から福江島でライブをしに来たことがあった。そのときも隈本さんはおもしろいアイデアが浮かんだという。
「玉之浦という、昔は1万人いたのが今では1,400人を切っている町で公演をやりました。玉之浦の小学校は20人くらいしかいない。みんな遠くに住んでいるから、タクシーが小学生を送迎しているんですよ。盛り上げるにはどうしたらいいかとバンドや街の人と話していたんですけど、僕は、いっそ小学校でベースを教えればいいじゃないか、と提案した。そんな小学校ないじゃないですか」
ベースが習える小学校。話題になりそうだ。
「次に、五島市では朝、昼、夕方に時報代わりの音楽が流れるので、手始めにあれをジャックしようぜ、と。そこでモモナシの曲をかけ続けようと言ったんです。別に、エーデルワイスである必要性はないですよね。そうすれば、町の子どもからお年寄りまで、モモナシの曲を聴いたら“なんかお腹が減ったな”となるかもしれないでしょ。そうやってじわじわジャックしていって、ベースを弾ける小学生が増えて、『ここの子達、えらいベースがうまいな!』ってなったら面白いじゃないですか」
僕らがやることに初年度があったっていいやん
「学校には使ってない太鼓もあるらしいんですよ。漁師町なので、大漁を願うために太鼓を手に入れたみたいですけど、長続きせずに眠ったままになってしまったみたい。もったいないから、太鼓でも何かやろうと。『そんなの急にやったってモノにならないだろう』と地元の人が言うんです。でも、五島の有名な神楽だって、何百年も続いているけど、初年度があったわけです。だったら、僕らがやることに初年度があったっていいやん、と。僕はそんなふうに楽しみながら、やっていきたいです。続かなければそれは仕方ないけど、面白いことには人は必ず寄ってくると思うから」
数値目標を立てて、何人集めないといけないと数字に汲々とするより、「楽しんだほうがいいでしょ」と隈本さんは笑う。
「お祭りも同じで、『カラオケ大会どうする? 賞品は何にする?』みたいな話し合いがされていた。予算表を見ると全体の予算のうち3割くらいカラオケに使うことになっていました。なんかもったいないなと思って、すぐ近くの沖合に島があるからそれを燃やすのはどうだと言ったんです。玉野浦地区だから京都の大文字ならぬ、“玉”の文字にして燃やして、どうせだったら予算も全部こっちに回して、水中花火なんかも面白くない? と。みんなも賛成してくれて、それからは地元の人たちが長老を説き伏せて『お前らの好きなようにせい』と言ってもらえました。今回は、ちょっとだけ道をこじ開けられたので、次回はまた広げていく作業です」
何かを否定して新しいことをやるのではなく、楽しそうなこと、みんながワクワクしそうなことを考えるのが受け入れられているのかもしれない。
福江島だからできることを考える
「もうひとつ、銀行の支店長や役所の課長クラスが集まるような町おこしの協議会があって、そこでアイデアをまとめたり出したりする役をやりました。教育の話が出たので、五島を卒業したら船舶やスキューバの免許をとれるようにすればええやん、と提案しました。島で生きていくうえで便利でしょう。それに、夏になるとみんな草刈りをするんですよ。だから、小学校にあがるときにランドセルの代わりに草刈り機をあげるのもよくないですかと。そうすればみんな草を刈って島もきれいになりますから」
隈本さんの話を聞いていると、島で暮らす上で役に立つものだったり、島の資源を生かしてワクワクする楽しいことを考えたり、福江島だからこそできることというのが軸にあるのが伝わってくる。「東京だとこうだよ」と都会のスタイルを持ち込むのは意味がない。だって、ここは五島なのだから。ダメなところがあっても、それを楽しむくらいの姿勢でいることが肝要だ。
「僕はもっぱら言うばっかりで、まとめ役はほかにいるんです。僕がまとめようとしても、なかなか難しいと思う。いろいろ新しい動きもしたいので近いうちに、いま住んでいる地区から玉之浦地区に島内単身赴任をすることも視野に入れています。玉之浦でもカヌーはできるから、その地区にもうひとつ家を借りようとしているところです。奥さんは絶対に行かないって言うから。福岡から五島に住むのはいいのに、同じ島の中で引っ越すのはいやだって言うんですよ(笑)。おかしいでしょ?」
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全4回に渡って長崎県五島市(五島列島の福江島)に移住した隈本さんの移住ストーリーを追った。
隈本さんはバイタリティーにあふれ、とても愉快な人だった。今回の取材の中で印象に残っている言葉が2つある。
1つめはハローサークで職探しをしたときに求人の給与額を見たときのひと言。
「裏を返せば、それで生活できるってことだな」
移住を考えたときに大多数の人が今の収入から下がるケースが多い。隈本さんの気づきは言い得て妙だと思う。都会的感覚では難しい額なのかもしれないが、その額でも暮らせるから成り立っているはずだ。いまの暮らしを基準に考えるのではなくて、現地の暮らしを考えことが大事だ。
そして2つめはまさに目からウロコだった。
「僕らがやることに初年度があったっていいやん」
街を盛り上げるためのアイデアについて聞いていたときに出てきた言葉だ。街に根づく伝統もさかのぼれば、初めて行われた年があったわけだ。これから、その地域の新しい伝統が始まっていったっていいはず。
移住者や地元の方々の取り組みで福江島に新しい歴史が生まれていくことを期待したい。
【了】
五島市の移住情報はこちら
五島市公式サイト
http://www.city.goto.nagasaki.jp/ui-turn/
長崎県の移住情報はこちら
ながさき移住ナビ
http://nagasaki-iju.jp/
長崎県の移住にまつわる記事はこちら
キャンピングカーで移住先探しができるってよ in 長崎県 軽キャン大解剖!
平戸市でカフェを開いた力武秀樹さんの移住物語 全4回
>>https://cazual.shufu.co.jp/archives/tag/hirado_life02
平戸島でゲストハウスの準備している吉田さん夫婦の移住物語 全4回
>>https://cazual.shufu.co.jp/archives/tag/hirado_life01
text:george
【PROFILE/george】
茨城県東海村出身の32歳。インテリア雑誌、週刊誌、書籍、ムックの編集を経て、現在Webディレクター。4年前の朝霧ジャムに行って以来、アウトドアにハマる。テントはMSRのエリクサー3、タープはZEROGRAM。車を持っていないので、キャンプに行くときは知人の車に相乗りが常。なので、基本の装備は「軽くコンパクトに、友人の負担にならないこと」が信条
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