実は20年以上もキャンプ場を運営している無印良品
1995年の誕生以来、人気の高さで知られるのが無印良品キャンプ場だ。一般的なキャンプ場とはかなり異なるアプローチをしているのは、”感じ良いくらし”を提案する「無印良品」ブランドの一部だからであろう。無印良品キャンプ場のほかにない理念について、キャンプ場事業をマネジメントしている担当の石川雅人さんに話を聞いた。
プロフィール:石川雅人さん/良品計画 広報
1970年生まれ。神奈川県出身 (株)良品計画キャンプ担当所属。無印良品キャンプ場の企画・開発・運営および各種アウトドアイベントの企画営業を主に担当している。シーズンを問わず津南、南乗鞍、嬬恋と3つのキャンプ場に出没中。
無印良品のミニマリズムは世界でも評価
無印良品。1980年に日本で生まれたこのブランドはいまでは世界各地で展開されるミニマリズムを象徴する存在になっている。
生活雑貨、食品、衣料、家具、住宅と非常に多岐にわたるジャンルを網羅し、成功したブランドは世界的にも稀有と言えるだろう。
彼らの原則は「素材の選択」「工程の見直し」「包装の簡略化」の3つ。製品はとてもシンプルで、ホームページによれば「『空っぽの器』のようなもの。
単純であり空白であるからこそ、あらゆる人々の思いを受け入れられる究極の自在性がそこに生まれます」と書かれてある。
キャンプブームが徐々に縮小する中で
無印良品キャンプ場は、1995年津南(新潟県)、次いで1996年に南乗鞍(岐阜県)が開業。ともにオートキャンプブーム真っただ中に開業されたキャンプ場である。石川さんの入社は1996年。南乗鞍のオープニングスタッフとしての採用だった。
「開業当時、衣食住を提案した無印良品が、次に人には余暇が必要であろうと考えたようです。余暇を無印良品の視点で解釈すると自然が対象となって、キャンプに結びついたのだと思います」(以下、すべて石川さん)
キャンプ場の料金は当時も今も1区画に対して設定されているのが普通だが、無印良品は一人いくらの利用料設定を打ち出した。
つまり、1人で来場しても、5人で来場しても一人当たりの料金は同じなのだ。
「誰にでも公平な料金設定ですが、おそらく創業時のキャンプビジネスに対するアンチテーゼだったのではないでしょうか。キャンプは少人数でも大人数でも楽しめるべきもので、キャンプ場の楽しみ方は使う人の自由。無印良品キャンプ場の考え方なら人数に関係なく同じ料金で使用いただけます」
開業から20年以上を経たが基本姿勢は変わらずに、時代とともによりよい方向を目指し続けている。そんな無印良品キャンプ場が発行しているのがリーフレット『外あそび』だ。
『外あそび』は年に二回発行され、特集を組んで4つのコラムを掲載する30数ページの小冊子。誌面はさまざまな外での時間の過ごし方を、幅広いジャンルの人たちへの取材を基に構成されている。無印良品キャンプ場を担当する石川雅人さんに『外あそび』誕生の経緯から聞いてみた。
「開業からほどなく2000年に向かうころ、キャンプ業界全体が下降線を辿りました※1。そこで私たちはキーワードとして『アウトドア』は敷居が高いと考え始めたのです。キャンプは家族総出の一大プロジェクトであり、一年に一度行ければよいというイメージでしたから」
※1 オートキャンプ参加人口は1996年の1580万人をピークに、2008年の705万人で底を打つまで減少を続けた。出典:オートキャンプ白書(日本オートキャンプ協会 発行)
キーワードとしての「外あそび」誕生の経緯
キャンプとなれば、実際の準備、屋外での時間の過ごし方など、不慣れな人にはいくつも難関が待ち構えている。「まずはどんなことでもいいので外で遊ぶこと。さまざまな外あそびから、今度は泊まりがけであそびに行こう。だからキャンプしようにつながる」という考えに石川さんたちは行きついた。
アウトドアよりも、より身近なフレーズはないか? そして、無印良品が見つけた言葉が「外あそび」だ。キャンプやアウトドアといったアクティブなイメージにとらわれず、もっと身近に戸外で過ごす楽しみ「外あそび」を紹介することで、消費者に屋外へ一歩を踏み出す提案を始めたのだ。
「最初は犬の散歩が楽しいとか、サーフィンに夢中とかなんでもいいと思います。一歩、家の外に出たらすべて外あそび。星を見るのも風に吹かれるのも。また、買い物だって遊びになるのです。買い物に出かける車はその用途に合っていたほうが気分は盛り上がるでしょう。たとえば、わざわざ箱根の富士屋ホテルにスポーツカーに乗ってパンを買いに行くなんて外あそびも楽しいと思います」
石川さんたちの考える外を楽しむアイデアは次々と連鎖していく。山中のドライブなら音楽は山道の風景に似合うものを選ぶほうがいい。服装だって、普段着じゃなくオシャレをしてほしい。車の中にクーラーボックスが一個あれば、買い物をしに行って生鮮食品を買っても、すぐ家に帰らなくても済むし、寄り道を楽しめる。
外あそびを楽しくする工夫
「買い物帰りに寄り道をしてコーヒーを飲む場合、チェーン店でもいいけれどガスバーナーの用意があれば、自分で淹れて外でおいしいコーヒーが飲めます。これはお金が必要なことでもない。屋外ではどうすれば気持ちのよい体験ができるのかを考えることが大切です」
石川さんが外あそびの楽しさを伝えるうえで、意識しているのは読者が情報を身近に感じられる工夫。
「リーフレットの『外あそび』で紹介する人は年齢と出身地を記載しています。同世代で同じ年齢だと読者に非常に興味を持ってもらえます。さらに読者と同郷の人だと、一層の親近感が湧くと思うのです。年齢や出身地のキーワードが少しでもキャッチになればよいと考えています」
驚くことに、外あそびのなかにキャンプ場の情報は記載されておらず、極力キャンプ場でのロケも行なわないという。
「この『外あそび』という小冊子では『無印良品キャンプ場に来てください』とは言いません(笑)」
遊びをキャンプに限定することや、単純にキャンプ場へ誘導するよりも、豊富な屋外での過ごし方を提案することで、キャンプに自らたどりつく人は少なくなかったに違いない。
キャンプで不眠症が改善する?
石川さんへの取材の中から、無印良品キャンプ場の独創性をうかがわせる話題がいくつも飛び出した。睡眠もその一例だ。すでに『外あそび』において、睡眠についてアプローチする企画も行われたそうだ。
「不思議なことに、雨の日にテントで寝るとよく眠れるのです。雨音がテントから聞こえるのに、なぜだかよく眠れてしまう。もし、雨音によって睡眠に適したなんらかの脳波が発生するとわかれば、テントの種類やメーカーごとに、どのテントが降雨時にもっとも睡眠に効果的なのかなどが研究できるわけです。
体内時計がキャンプで改善されるとコロラド大学が発表した例もあります。『キャンプを科学する』。これをダイエットのように(一般的な話題に)引き上げたい。このように外あそびには様々なテーマがあるのです」
石川さんが話した研究は、コロラド大学ボルダー校の研究員であるKenneth Wright氏によってCurrent Biology誌上で発表されたもの。キャンプの環境(自然光)と人工光、それぞれが体内時計に与える影響を調べた研究で、キャンプによって一週間以内に体内時計が正常化されると、同記事を引用する形でイギリスのデイリーメールによっても紹介された。
デイリーメールの記事はこちら
Current Biologyの記事はこちら
次回は、キャンプを通して自然の本質を考えるきっかけづくりをする石川さんら無印良品キャンプ場の活動に迫る。
>>【後編に続く】
text:ビューティフルキャンピング
【PROFILE/ビューティフルキャンピング】
本業はメンズファッション誌、ファッション広告の編集・執筆。2011年春から、キャンプ空間をスタイリッシュに演出する楽しみ方「ビューティフルキャンピング」を広めようと活動中。
http://beautifulcamping.net/
https://www.facebook.com/BeautifulCamping
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