平戸の住まいや地域コミュニティとのかかわりについてまとめたvol.3はこちらから
長崎県平戸市根獅子地区でゲストハウス開業を目指す吉田佑介さん、綾子さん夫婦が、京都府南丹市美山町から移住してきたのは2015年秋でした。過去3回の記事では、移住のきっかけ(vol.1の記事参照)、平戸での仕事(vol.2の記事参照)、住まいや地域コミュニティとの関わり方(vol.3の記事参照)についておうかがいしました。
最終回となる今回は、1年と数ヶ月、実際に住んでみて感じた平戸の暮らしやすさや、島暮らしの魅力、移住先を決めるうえで押さえておくといいポイントについて教えてもらいます。
平戸はアウトドアフィールドが近くて最高
まずはじめに、実際に平戸に移住してきてどうだったのか、率直な感想を聞いた。
「もともとアウトドアが好きなので、フィールドがすぐ近くにあるのが一番の魅力。海に行きたいときは海に行ったらいいし、山に行きたいときはすぐに行ける。狩猟の面で言っても家のすぐ裏が狩猟場になる。田んぼも畑も近所の農家さんが近くで貸してくれます。仕事も遊びも近いところにあるのが気に入っています。実際、僕は根獅子から出なくても生活できるくらいです(笑)」
かなり平戸市が気に入っている様子の佑介さん。実際、夫婦ともに移住してきて以降、長崎市内には一度も行ったことがない。
「平戸からほとんど外に出ないですね。イベントがあったら佐世保近辺に行くことがありますけど、それも滅多に行かないです。というか、平戸大橋(編注:平戸島と本土をつなぐ橋。全長665m)を渡ること自体が少ないですね」(綾子さん)
平戸の生活インフラは充実している?
日々の生活に関してはスーパーも近くにあり、ネットショッピングも合わせて使えば不便を感じることがないと言う。とはいえ、アウトドア好きな旦那さんは満足しているものの、日々の生活を成り立たせるには育児や家事を担う奥さんの役割は小さくない。
「移住するときって、開拓精神がうずくのか、だいたい男性が思いつく。女性は生活環境を変えるのを嫌がると思うんです。そういう目線で見ると、京都の山間部から来たというのもあるけど、平戸は病院にスーパー、学校、生活インフラはすべてそろっています。根獅子町から平戸の市街地まで車で30分で行けるし、小学校、中学校、高校もあるし、保育園もいっぱいあります。生活はしやすいと思います」(綾子さん)
インターネットの整備状況はチェックすべし
ふたりともベタ褒め状態だが、なにかマイナスな面はないのかと尋ねると、インターネット光回線の整備状況という意外な答えが。
「平戸市に関して言うと、まだ光回線が全島に配備されていません。これから移住で来られる方たちが、ローカルビジネスを起こしたいと思ったとき、ネックになる人もいるかなと思う。2019年に全島配備の予定です」(綾子さん)
インターネットの必要性については、ある意味、都会よりも切実かもしれない。いくら農ある暮らし、ナチュラルライフを楽しんでいても、インターネットは必要とのこと。特に田舎に行けば行くほど、最寄りのスーパーまで遠くなり、買い物難民の話題も耳にする。そういうときには、インターネットショッピングが重宝される。
ローカルビジネスはネットの発信が成功のカギ
「ローカルビジネスという点でもネットは重要だと思います。ローカルビジネスの可能性が広がるなか、各地の移住者のみなさんが面白い事業をされています。今はSNSが広報活動に欠かせなくなっていますから、情報発信は大事だと感じています」(綾子さん)
ローカルでも面白いことをしている人はたくさんいるものの、きちんと情報発信しないと集客は難しいのが現状だ。なにか個人で仕事を起こして軌道に乗せるにはインターネットの活用は不可欠と言える。吉田さん夫婦もゲストハウスを開業したら、もっといろいろな平戸の情報を発信していきたいと計画中だ。
平戸の移住先としての隠れた魅力は本土と橋続きのところ 実家への帰りやすさって高ポイント
移住者という立場から見た平戸島に住むメリットも語ってくれた。
「平戸島本島に住むメリットは、本土と橋で繋がっていることですね。“島暮らし”の醍醐味を十分に味わえるのに本土にアクセスがしやすいというのは移住者にとってはありがたいポイント」(綾子さん)
長崎は海洋県で、九十九島、対馬、壱岐島、五島列島など、島も多く、県下には594もの島が存在している。島というとフェリーや飛行機で渡るというイメージが強いが、平戸島は本土から平戸大橋でつながっていて、島外へのアクセスが非常にいいのだ。
「確かに島にフェリーで行くのはロマンがあります。そういう意味では、平戸は“島”としてカウントされていないのかもしれません」(綾子さん)
だが、この“橋続き”というのが移住者にとってはキーポイントだと綾子さんは続ける。
「移住者は県外から来る方がほとんどですから、里帰りをされる方が多いと思います。そういうときに、たとえば長崎空港や佐賀空港、福岡空港にアクセスしやすい。車ならどこもだいたい同じくらいの時間で行けます。島暮らしをしてみたいけれど離島はハードルが高い、という人には平戸島はおすすめです」
海や山、アウトドアのフィールドがすぐ近くにまとまっていて、土地特有の文化が色濃く残っている平戸島は、“島暮らし”の魅力がたっぷり味わえる。その一方で、橋続きのため本土への行き来もしやすい。移住者は、現在の住まい以外に故郷だったり、それまで住んでいた都市だったり、縁のある土地がいくつもあるもの。
「平戸島と本土が繋がっているというのは移住者にとって、あとあとメリットになります」(綾子さん)
実際に見た移住を断念した人たちの共通点とは
平戸での暮らしを楽しそうに話す吉田さん夫婦だが、田舎への移住を断念した例を見たことも。そういった人たちはなにか共通点などはあるのだろうか。
「憧れだけで来た人はちょっと大変かなと感じます。素敵な田舎暮らしが自分を満たしてくれると思っている人は、理想と現実のギャップにショックを受けたりするんじゃないですかね。やっぱり目標と共に忍耐力を持って “自分はこうしたいんだ”っていう気持ちがないとダメ。待っていても向こうからはなにもやって来ません。しんどい事があると、想像と違うって帰っちゃうのかな」(佑介さん)
また、子育て世代では、移住してしまうと実家のサポートを受けづらくなるというのもあり、断念する人も少なくない。
「移住して子育てするのは正直大変です。実家が遠方にある子育ては覚悟がいると思います。でも子どもに対する眼差しは都会より地方のほうが優しいのでストレスは少ないかな」(綾子さん)
吉田さん夫婦にも2歳のお子さんがいるが、乳飲み子を抱えながら環境を変えることについて不安はなかったのだろうか。
「平戸の前にすでに京都の美山で田舎暮らしをしていたので、住む場所が変わるぐらいで、そこまで不安はありませんでした。しいて言えば彼は福島、私は横浜の出身。長い京都暮らしのすえに“京都っ子”が生まれたって思っていたのに、次は長崎ですかって思ったくらい(笑)」(綾子さん)
うまく自治体の支援を受けるとスタートがスムーズ
最後に、これから移住を考えている方にメッセージをもらった。
「“不便な場所でどうやって生活しているの?”とよく聞かれますが、“不便じゃないですよ”と答えても納得してくれないんです。大きな都市と比べたら施設がそろっているわけじゃないですから。でも、ネットをうまく利用したり、あるもので足りる暮らしに慣れていけば不便ということは感じなくなります。この場所で暮らしているからこその楽しみや喜びが増えれば、不便ということに囚われなくなると思います」(綾子さん)
「それに家賃は安いし、環境もいいし、おいしい食べ物が手に入ります。行政もいろいろ支援してくれます。そういうサポートがあると、移住もだいぶんハードルが下がります」(佑介さん)
ちなみに、吉田さん夫婦は平戸市の移住サポート事業である中古住宅改修費用支援事業の補助金を受けている。空き家バンクに登録されていた物件の改修費用として修繕費の半額(上限50万円)の補助を受けた。
「大きな改修は補助金の申請をして、大工さんに家の改修工事をお願いして、あとは自分でできることをコツコツやっています」(佑介さん)
ほかにも市外から平戸市へ移住する際に生じる交通費や引っ越し代をサポートしてくれる移住費用支援事業などもあります。また、ゲストハウス開業に向けて、創業支援補助事業の申請も検討しています。
「平戸市役所のみなさんはホスピタリティが高いので、相談すると親身に対応してくれるんです。なので、そういった点もとてもありがたいなと感じてます」(綾子さん)
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全4回に渡って長崎県平戸市に移住した吉田さん夫婦の移住ストーリーをご紹介しました。
移住の経緯や、移住に必要な心得、暮らしのなかで大事にしていること、困っていることなど、ざっくばらんに答えてくれた吉田さん夫婦。移住した先での暮らしは、いいことばかりではないし、都会に比べて不便なことも多いと思います。
でも、視点ひとつできっと暮らしは楽しくなるはず。綾子さんはこう話してくれました。
「この場所で暮らしているからこその楽しみや喜びが増えれば、不便ということに囚われなくなる」
暮らしの豊かさは、どういうところに楽しみを見出すか、結局はその1点に尽きるのかもしれません。
広大な海に沈む夕陽、包み込まれるような深い山、星がきらめく満点の夜空など、圧倒的な自然を感じ、その自然がもたらす豊かな恵みを享受できる長崎の暮らし。とっても素敵です。
吉田さん夫婦が開業準備を進めているゲストハウス、長崎県の移住情報はこちらまで。
一棟貸しの古民家ゲストハウス「山彦舎」
2017年春季オープン予定
HP:https://yamahikosha.jimdo.com/
FB:https://www.facebook.com/yamahikosha2016
Instagram:https://www.instagram.com/yamahikosha2016/
ながさき移住ナビ
http://nagasaki-iju.jp/
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text:george
【PROFILE/george】
茨城県東海村出身の32歳。インテリア雑誌、週刊誌、書籍、ムックの編集を経て、現在Webディレクター。4年前の朝霧ジャムに行って以来、アウトドアにハマる。テントはMSRのエリクサー3、タープはZEROGRAM。車を持っていないので、キャンプに行くときは知人の車に相乗りが常。なので、基本の装備は「軽くコンパクトに、友人の負担にならないこと」が信条