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田地祐造さん(42歳)は東京でのサラリーマン生活を経て、地域おこし協力隊として宮崎県小林市に移住し、任期終了後は養蜂業にチャレンジしている。今回の記事では、小林市での暮らしについて話をうかがった。
小林市で暮らす魅力は?
「小林市は風景がいい。山が近くて、空気が澄んでいてとてもきれいです。晴れた日は山の稜線どころか木々までくっきり見えるくらいです。特に雨が降った次の日はすごい。また雪の降ったときの山も素晴らしいです。あと、住んでいる者としては、観光客が少ないのも僕はいいなと思います。市からしたら悪いことかもしれないですけど」
自然環境のよさを強く感じているという。アウトドア的な楽しみも見つけた。
「庭でバーベキューは日常的にやるようになりました。近所のみなさんを集めたりもするし、子どもたちとお昼を外で食べることもあります」
水の町でもある小林市は湖や河川があり、さらに霧島連山に囲まれているので山登りも楽しめる。もっと自然と遊ばなきゃと思わせてくれる環境だ。ただ、アウトドアガイドをする方がいないため、ビギナーが気軽にアクティビティをできるところまでは至っていない。自然環境は申し分なし。自然を、どのように魅力的なコンテンツにしていくかが今後の課題だろう。
また、生活という面では、田舎すぎず、都会すぎず、小林市は非常に暮らしやすいという。
「自然も残されているんだけど、スーパーとかコンビニとか暮らすうえでのインフラがちゃんとまとまっている。これって移住者から見るとすごくよいところだと思います」
ただ、地方都市ならではの悩みもある。医療問題だ。現在、小林市には分娩できる環境がなく、出産する際には都城市など市外まで出なくてはいけない。住んでいる地域で出産ができないのは、移住を検討する若い世代にとってはマイナスポイントかもしれない。こうした医療問題は、地方自治体だけでどうにかなる問題ではない。国として制度をあらためないと解決は難しいだろう。医者の移住促進を推し進めるのも面白いかもしれない。
季節行事や地域行事が自然と残っている
「地域の行事も、子どもと一緒にやる微笑ましいものが多いですね。あと小学校の発表会とかも平日にやるんですよ。東京だと勤めている人も多いから土日じゃないでしょうか。こっちは農家さんや自営業の人が多く勤めの人が少ないので、平日に一時間半だけみんな集まってやる。フレキシブルだなーって思います。時間、空間に広がりがあって、伸びやかな景色があってそこに小学校がある」
年末には自分たちで餅をついてお正月にそなえたり、季節ごとの行事もごく自然に残っている。
ほかにも、2年に1回、集落ごとに地区対抗運動会などもある。実は小林市はスポーツが非常に盛んで、全国レベルの運動部を持つ高校が複数あるのだ。その影響があるのか、市内には体育館などスポーツ施設が充実している。
地区対抗運動会は、地区ごとに小さな子からおじいさんまでが一緒になって、誰がどの競技に出るのかを決めて参加。白熱した戦いが繰り広げられるという。こういったイベントに積極的に参加すると地域に溶け込むのも早い。こういった付き合いが嫌なら、田舎暮らしはあまり向いていないかもしれない。よそ者を脱却するためにも、地域の人たちを一緒に何かをするのが大事なのだ。
移住してうまくいくかは住んでみないとわからない
移住の先輩である田地さんに、どういう人が移住に向いているのか教えてもらった。
「小学校もしくは就学間近のお子さんがいる家族は十中八九うまくいくと思います。
でも定住するだけが成功ではなくて、いろんな地域に住んでみて、
移住自体が目標になってはいけないのだ。
「小林市に来てからいろんな移住者の方を見てきて、当然、合わずに出て行く人もたくさん見送ってきました。移住して幸せに暮らせるかどうかはいろんな要素があると思いますが、大事なのは思い描いているライフスタイルが、その場所でできるかどうか。移住した先の地域性や環境がそれぞれの思い描くライフスタイルとミスマッチな場合はどんどん違う場所でリスタートしたらよいと思います」
土地にこだわらず、自身が望むライフスタイルを実現するにはどうすればいいのか、チャレンジする気持ちが大事だ。
「僕がこの場所で満足して生活しているのも、運命の分かれ道をちょっとしたことでうまく進んだだけで、振り返ってみると実は綱渡りだったような気もします。現在は、ほぼ思い描いていた生活になっていて、ちょっと満足してしまっているところがあります。まだまだなんですけどね……。
だから今は田舎暮らし後の次の夢を設定しているところです。質実剛健に慎ましく暮らしているので思い切って新車の購入か、海外旅行か。思わず結婚もできたので、家族の夢を作りたいと思っています。
自分が満足しているのは、思い描いていたライフスタイルが送れているからだと思います。それは家族で過ごす時間がたくさんあって、自然や季節を肌で感じられる環境、のびのびとした暮らしです」
今後は移住者を増やすためのサポートに関わりたい
移住者が増えてほしいという気持ちは強く、田地さんなりのアプローチを考えている。
「東京から友人が来て、こっちに滞在するとこの環境をとても気に入ってくれます。すごせばよさが伝わるんだなーと実感します。なので、近い将来の目標として民泊を始めたいと思っています。民泊には3つの目的があって、1つは収入源として、もうひとつは子どもたちにいろんな価値観に触れさせるため、最後が小林に訪れる人が少しでも増えるように」
養蜂や民泊で収入を安定することができれば、移住を検討している人たちのモデルケースになれるだろう。そして自身の収入以外でも、民泊は地域に貢献できると考えている。
「子どもにいろんな価値観を知ってもらうという点では、こっちは小中高とほぼ同じ同級生だったり、市外の人と触れ合うことが簡単にはできなかったり、田舎なので工夫しないとずーっと同じ環境で育ってしまいます。なので、民泊を通していろんな地域の学生さんやちょっと上の世代の修学旅行生と触れ合うことで田舎であることのハンデを乗り越えられるんじゃないかと思っています。
小林市を中心とするこの宮崎県の西諸県地域では農家さんによる修学旅行生の受け入れが主となる民泊が盛んです。地元でずっと農業をされてきたベテランの方が多いのですが、自分も違った立場で、移住した経験やそれまでのキャリアを子どもたちの将来設計の参考にしてほしいです。そういう部分で地元の人と違う価値をこの地域にもたらすことが今まで親身になって助けて頂いた方々への恩返しになると思っています」
今後は移住者のメンター制度が重要になるかもしれない
移住者がそれほど多くないので、コミュニティはまだないという。ただ、移住者が増えていくときにはメンターの存在が必要になるだろう。
「
住む場所にマイナスの感情を持ってしまうと、それを覆すのは並大抵のことではない。出て行くのは止められないにしても、せめていいイメージで送り出したい。
「どうするかって言ったら、僕らが楽しそうに生活するしかないですよね(笑)。結局ものすごくパーソナルな問題だと思います。例えば、国の制度ではひとくくりにされちゃいがちですけど、それぞれ背負っている背景も違うので」
田舎の日常を伝えることが移住への関心を高める
東京から友達が遊びに来ると、「ライフスタイルを見直そう」と言われることも多い。
「友達は泊まりにくると、気持ちよく帰ってもらえます。田舎の家ですけど、こういうところに泊まって喜んでもらえる。どこか観光スポットに案内するというよりも、近所の温泉に入って、うちに泊まってしゃべって、風景を見てもらうだけで楽しんでくれます。きっと日本全国どこの田舎もそうだと思います。そうやって来る人が増えれば、『住んでみようかな』って人も出てくるんじゃないですかね。
自分たちはまだ小林市に移住者が少ないときに入ったので、少しだけ長くいるぶん、新しく来られた方々が地域にとけこみやすくなるお手伝いやアドバイスがしやすいと思っています。それとともに最終的に小林市を選ばないとしても田舎暮らしのよさをこういった場で伝えることができればいいなと思っています」
こんな日常があると知るだけでも自身の暮らしを見つめ直すきっかけになるだろう。移住というと、収入が減る、娯楽がないなどとネガティブに考えてしまうことも多いが、田地さんから、そんな雰囲気はみじんも感じない。
「基本、毎日楽しいんです。お金がなくても楽しい生活を送りたい。朝、子どもが歩いていく風景を見るだけでも感動しちゃうんです。いいところだなーって」
【了】
田地祐造さんの移住記事はこちら
虫が苦手、ガチなアウトドアも無理、お酒も飲めない40目前の会社員がなぜ移住できたのか/宮崎県小林市移住ライフvol.1
東京育ちの会社員が移住して地方おこし協力隊になってみた/宮崎県小林市移住ライフvol.2
東京から移住してサラリーマンから養蜂家へと転身/宮崎県小林市移住ライフvol.3
家族で過ごす時間がたくさんあって、自然を肌で感じられるので移住は大満足/宮崎県小林市移住ライフvol.4
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取材・文/george
【PROFILE/george】
茨城県東海村出身の32歳。インテリア雑誌、週刊誌、書籍、ムックの編集を経て、現在Webディレクター。4年前の朝霧ジャムに行って以来、アウトドアにハマる。現在は、アウトドを主軸にしながらも地方移住などローカルトピックにも積極的に関わっている。