手軽に始められるシロギス釣り
シロギスは「海の女王」とも呼ばれる魚で、スラリとした細身のシルエットとキラキラと光り輝く体色が特徴。
クセのない上品な味で、定番としては天ぷら、新鮮なものは刺身と、どのように食べても箸が止まらなくなるほどおいしい夏の味覚です。
冬をのぞいて一年中釣れますが、7〜8月頃にベストシーズンを迎えるシロギス釣りは、子どもから大人までが気軽に楽しめるアクティビティ。
低予算で始められるため、釣りに関して完全初心者の方にもおすすめの釣りです。
そんな手軽で楽しいシロギス釣りを、今回は釣りを目的としたツーリング、「釣りツーリング」のなかでおこないました。
ちょっと遅めの出発
釣りにおいては、狙い目とされる時間帯が1日に2回あります。それは日の出の前後におとずれる「朝まずめ」と、日の入り前後におとずれる「夕まずめ」。
この日(取材日は9月1日)の日の出の時刻は午前5時頃だったので、それに合わせて出発する予定でした。しかし二度寝をしてしまい、結局出発したのは午前7時。朝まずめを完全に逃しています。
そうなるともう急いでも仕方がないので、のんびりと景色を楽しみながら海へ向かいました。
漁港に到着。シロギス釣りスタート!
今回シロギス釣りの場所として選んだのは、青森県某所にある漁港。個人的に実績がある場所で、シロギスを釣りに行くとなると、まずはこの場所から始めます。
漁港の良いところは砂浜よりも簡単な装備で釣りを楽しめること。湾内であれば波の影響もあまり受けません。
シロギス釣りに使用する道具
右下にあるのがキス釣り用の針です。シロギスは口が小さいので、針もそれに合わせて小さく作られています。シロギス釣りにはキス用の針が不可欠です。
針の横に置いている水色の道具は「針はずし」。これがあると、魚の口から簡単に針を取り外すことができます。
右上にある道具は「天秤(てんびん)」というもので、針を遠くまで飛ばす重りの役目を果たします。これもシロギス釣りにはなくてはならない道具です。
左側にあるのが、竿とリール。どちらも1000円台で買えるものから数万円するものまでピンキリの道具ですが、最初は3000円ほどで買えるセットで問題ありません。
そしてエサは「ジャリメ」という虫を使用します。
釣りエサの定番である「青イソメ」よりも小さいので、口が小さいシロギスを釣るのにうってつけのエサです。
バイクから荷物を下ろし、これらの道具を急いでセッティング。出発から1時間半が経過した午前8時30分、シロギス釣りがスタートしました。
一投目。投げてすぐに「コツン、コツン」というかすかな引きを感じ、期待とともに糸を巻き上げます。そして姿をあらわしたのがこの魚。
これはキュウセンという名前の魚で、シロギス釣りの外道としてよく釣れます。地域によっては高級魚として扱われるのだとか。
まだ小さいうえに目的の魚と違うのですぐにリリース。元気に泳ぎ去って行きました。
続いて第二投。またも投げてすぐに反応が。糸を巻いていくと、徐々に綺麗なピンク色が見えてきました。
子どものタイです。タイといえば誰もが知る高級魚。シロギスが海の女王と呼ばれるのに対し、タイは「魚の王様」と呼ばれています。
まだ小さいのでどうしようかと迷ったすえ、キープすることにしました。その理由は、最終的にシロギスが1匹も釣れないという可能性を捨て切れなかったからです。
ここで釣られなければ未来があった命ですが、おいしくいただくことにします。
ついに姿をあらわした念願のシロギス!
釣りをスタートしてから約2時間がたった頃、それまで小さな外道しか釣れておらず、「もしかして本当に1匹も釣れないんじゃ……」と不安を感じ始めていました。
するとその不安感を断ち切るかのごとく、ナイフのように鋭く光る魚の姿が!
これが今回のターゲット、シロギスです。サイズは20cmほどと決して大きくはないものの、ホッと胸をなでおろした瞬間でした。
「釣れて当たり前」くらいに思っていた魚がまったく釣れず、ようやく手にした1匹のシロギス。嬉しさもひとしおです。
それからはシロギスやタイがポツリポツリと釣れたものの、どれもこれも小さな魚ばかり。そしてエサがなくなったところでシロギス釣りは終了。最終的な成果はかなり残念なものとなりました。
しかしこれで終わりではありません。そこからはまた楽しいツーリングと、釣った魚を料理して食べる時間が待っています。
釣果は振るわなかったものの気分は上々。釣りに来たときと同様に、海や山の景色を楽しみながらキャンプ場へ向かいました。
釣った魚をキャンプ場で食べる
地元の無料キャンプ場に到着してすぐ、釣った魚の調理を開始。全部で10尾釣ったうちの8尾を天ぷらに、2尾を塩焼きにします。
天ぷら用の魚は頭とウロコと内臓を取り除き、背開きに。
塩焼き用の魚はウロコと内臓を取って竹串を刺し、全体に粗塩をふりかけます。
ヒレと尻尾には見た目を良くするため、塩を多めにつけるのがポイント。これを「飾り塩」といいます。
ここのキャンプ場には直火で焚き火をするためのスペースが設けられているので、塩焼きはその場所を利用。運よくその場に残されていた木炭を使って焼くことにしました。
天ぷらのほうも、天ぷら粉を水でとき、油を入れた鍋をガスバーナーにセットして準備OK。
すべての準備が完了し、やっと腰を下ろすことができたのが午後3時。午前7時に出発してから実に8時間が経過しています。
油の温度が上がったことを確認し、今回のターゲットであったシロギスの綺麗な身を投下。
静寂な森の中に、「ジュワー」と大きな音が響き渡ります。
油に入れてから取り出すまで、ほんの数十秒。もともと小さかったシロギスが、さらに可愛らしいサイズになっていました。
すぐに塩をつけてサクッと噛むと、口の中いっぱいに広がる淡白な旨み。
前日からの準備も、この日の釣りツーリングも、まさにこの瞬間のためのものでした。
続いては塩焼きです。
しばらく目を離しているうちに少し焦げてしまったものの、これもまた美味。天ぷらよりも野性的な味です。
すぐそばにいる外国人のカップルの方向から聞こえてきた「very small…」という言葉が、ほど良いスパイスになっていました。
すべて食べ終わった頃には日没も近い時間になっており、すぐに撤収作業を開始。
結果的に、ほんの少しの天ぷらと塩焼きを食べるためにたくさんの時間を費やしたわけですが、それでも楽しかったと思えた1日。
その日の思い出を振り返りながら、夕陽に染まる田舎の道をゆっくりと時間をかけて帰りました。
釣りツーリングの良さとは
どうしても荷物が多くなりがちな釣りにおいて、バイクは不便だろうと感じる方も多いはず。確かに良いことばかりではありません。
積載できる道具に限りがあったり、釣り場を移動する際には釣竿をしっかり収納しなければいけなかったり……。
そんなデメリットがあることを承知のうえで、それでもバイクを選択してしまう理由は、道中に得られる爽快感に尽きます。とくに、何も釣れなかった日はなおさら帰り道の爽快感に気持ちが救われるのです。
より大きな釣りの成果を求めるというよりも、出発してから家に帰るまで、その全工程を娯楽として楽しみたい。そのような人こそ、釣りツーリングに向いているのではないでしょうか。
たとえ釣れなくても楽しい。それこそが釣りツーリングの良さであると私は思います。
写真・文/斎藤純平
【Profile/斎藤純平】
キャンプ、バイクツーリング、スキューバダイビングを趣味とするアウトドアライター。加えてこれから狩猟を始めようかと画策中。何をするのにも基本的にすべて一人で、キャンプもツーリングも思い立ったら即出発。読み手にとって本当に役に立つ情報を発信します。