NAP代表、ディレクター兼デザイナー/河合 誠さんインタビュー その4
中途半端に現代的な廃校だったため、古くてなって雰囲気のあるようなものはあんまり存在しなかった。
堅いだけで味のない木材が貼ってあった床は、その上に杉板を重ねてイメージを一新。
エコノミーながらもひとつずつ変えていき、理想に近づけていった。
cazual編集部(以下、c) 自分らしいというか、スタイルが見える建物に変化したということですね?
河合さん(以下、河) 僕は理想が強いんだと思います。その情報源が映画だったり、昔に読んだ雑誌だったり。インターネットなんてない時代に育ってるから。
c 情報が短絡的ではないってことですね?
河 遊びに行くなら、こうしたい。山に行くなら、ああしたい。犬を飼うなら……という感じに。
僕が子供の頃の70年代、80年代はアメリカから色んな新しいものが続々と入ってきた。
スケボーもそうだし、アメリカンクラッカーだとか、コカコーラのヨーヨーだとか。
ものすごい好きというわけじゃないけど、スターウォーズを観たときは衝撃的だった。
c 今はなんでもあるけど、それまではなかった。だからすべてが衝撃的で、理想や憧れっていうのが強くなったんでしょうね?
河 今はできてないけど、チャンスがあったらゆくゆくこうしたいとか、映画で観たようなスタイルで酒が飲みたいなとか。
いろんなことをひっくるめての理想がライフスタイルであって、それをどういうふうに1つずつ実現させたりとかも、ライフスタイルの大事な要素。
でも今の雑誌はモノを羅列して、手に入れる提案が多いですよね。僕のとこにも「どんなもの持ってるか、取材させて」なんてよく来ますけど、経験型ではなくモノに落とし込みがち。
「腕時計を見せてくれ」なんて言われると、自分の腕にマジックで書いといてやろうかと思っちゃいますよ(笑)。
今って、簡単に手に入るものをライフスタイルって言ってる感じがする。自分のライフスタイルに合ったものを、ライフスタイルショップで買ってるみたいな(笑)。
c カタチから入る人っていますからね?
河 今のキャンプブームなんかもそうですよね。
うちもキャンプラインをやってて、やっぱりお客さんの反応はいい。
商売としてはいいんですけど、ブームではなく続いて欲しい(笑)。
と言っておきながら僕はこっちに来てから、いつも自然に囲まれてるんでキャンプとかする必要もなくなってしまって、いまでは外で寝たくないですもんね(笑)。
c 外での活動が生活の一部になってるからですか?
河 そう。今日は片付けをしたときに出た木があって、それを燃やすから焚き火してるって感じです。
c 焚き火がある生活って、都会に暮らすアウトドア好きには、きっとたまらないライフスタイルでしょうね。
ところで、ここでは製品を作るだけでなく、レストランもやってるんですか?
河 土、日だけ飲食店をやってたんですけどね。
ここの建設に入るころ、展示会をするスペースもいるんで、ショールームを作ろうって思ってたんです。
展示会を開くと、遠方から来たお客さんと食事に出かけたりもする。でも、この辺は食べるところが近くにない。だから、キッチンでも作ろうって計画して。
工事の段取りがはじまって、こっち通ってるときに地元の人らが、「イノシシの肉があるよ」とか、「野菜があるよ」と言って、もらったり。
山菜はその辺でいくらでも生えてくるから、自分たちで採ったりもできる。
でも実際に、展示会は年に2回しかやらないんで、そのために建物建てて、厨房作るのもおかしいって話になって。「じゃあ、ちょっとなんか簡単なカフェとかやろうか」って変わってったんですよ。
c 計画とか、やっぱり変わっていくもんですよね。作業とか内容とかも、移って来た当初より変わりましたか?
河 校舎だった建物が革小物とかバッグの組み立てとかの作業場。
裏の建物は縫製諸々。
前は外注に出していたレザージャケットとかの製造も、今では内製化できるようにしたんで、革の洋服とかも自社で縫ったりして、できることをちょっとずつ、いまだに増やしていってますね。ブランドも増やしたり……。
飲食店はリニューアルして、THE SUPERIOR LABOR 初の直営店、T.S.L STORE & LAB(ティー・エス・エル&ラボ)にして。ここでは生産拠点ならではのモノづくりを体感できるカスタムサービスやワークショップをやって。ブランド創設前に作ったプロトタイプや年季の入ったバッグなんかを展示してて。
レコードを聴き、コーヒーを楽しむお部屋になってるんです。
街中を離れ、山奥へ移住し、念願の工場と住居も建て、ブランドも順調に育っていった。
でもそこで終わりではない。
むしろスタートであり、リニューアルといった後戻りもしつつ、夢を開拓していく。
気づくとTHE SUPERIOR LABOR(シュペリオール レイバー)だけでなく、T.S.L CUB(ティー・エス・エル カブ)、MULLER & BROS.(ミュラー&ブロス)、COLLECTING THINGS(コレクティング シングス)といったブランドが増えている。
暮らし方、自然との接し方も、街中にいるときより変わっている。
ライフスタイルって買えるものではなく、育んでいくもの。
河合さんの仕事ぶりから、改めて気づかされた。
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