平戸への移住までの経緯をまとめたvol.1はこちらから
2015年9月に京都から長崎県平戸市に移住してきた吉田佑介さんと綾子さん夫婦。2回目となる今回は、主に仕事のことについて話を聞きました。
自然相手の仕事 平戸ではシーカヤックガイドをしている
吉田さん夫婦は、平戸島ならではの海も山もすぐ近くにある豊かな自然環境が気に入っていると言う。
「平戸島の山は標高でいうと高くないんですけど、そもそも海抜が低いので、海からニョキッと立っている感じがします。だから遠方から遊びに来る友人は、“思いのほか山が高いんだね”って言います」(綾子さん)
平戸島に限った話ではないが、海洋県である長崎は長く複雑な海岸線が特徴のひとつだ。入り組んでいて港湾が非常に多い。なので平戸島も山あいから、きれいな入り江や島影など絶景が見える。
「彼が福島の山育ちで、学生時代から京都に長く暮らしていたので、海にあまりなじみがありませんでした。だからより一層、平戸島の海に魅力を感じたのだと思います」(綾子さん)
もともと京都でネイチャーガイドをしていた佑介さんは、現在、シーカヤックのガイドをしている。
「平戸島の千里ヶ浜で『平戸カヤックス』という団体があって、そこに所属しています。でも、実は京都のときはリバーカヤックだったので、シーカヤックはこっちに来るまでやったことはなかった。同じカヤックといっても、全然別モノですね。この仕事もまた友人がシーカヤックのガイドの手伝いをやっていて、オーナーをすぐに紹介してくれて始めました」
ガイド以外に、農家手伝いやイノシシ狩りも仕事
ガイドの仕事は客商売なので予約がないときは、ほかにいろいろな仕事をしている。シーカヤックガイド以外の仕事について教えてもらった。大工、農家の手伝い、イノシシの有害鳥獣駆除、雑木林の伐採、学校の給食センター、これが平戸市に移住してから携わっている佑介さんの仕事。そのかたわら、春のゲストハウス開業を見すえて準備も進めている。
平戸島も高齢化が進み、農家の人手が足りず、若手の佑介さんに声がかかるのだとか。農家の手伝いというと、収入はどうなっているのかも気になるが、
「農協と契約しているとか、そういうことではないです。相手は個人の農家さん。“ヒマなら手伝ってくれんか?”と声がかかるので、いいですよと」
声がかかったときに、これくらい頂きたいと対価を交渉している。
「田舎なので安く設定しないと仕事にならないということはあるんですが、僕のほうも生活があるので、時給を交渉するようにしています」
大事なのは、信頼だと綾子さん。
「この人が真面目に働くというのは、周りの人がわかっていますから。前提として信頼があるわけです。あとは、この笑顔。言い方ももちろんありますけど、この笑顔のおかげで交渉が通っているんじゃないかなぁ」
田植え、稲刈りなどの時期以外だと、草刈りだったりジャガイモ掘りだったり、合い間合い間に仕事の誘いが入ってくるそうだ。
農作物のイノシシ被害に苦しむ平戸
わな猟の狩猟免許を持つ佑介さんは、有害鳥獣駆除としてイノシシ狩りも行っている。実はいま、平戸島を含めた長崎の離島はイノシシの被害に頭を悩ませている。もともとイノシシは生息しておらず、本土から海を渡って住み着き、大繁殖してしまった。
「平戸のイノシシ被害は日本のなかでも有数。ここ20年くらいで一気に増えました。平戸市全体で年間5000頭ぐらいが捕獲されています」(佑介さん)
それでもイノシシは減らないどころか増えているのが現状だ。
「最近、急増したこともあって、平戸にはイノシシを食べる文化がないんです。こっちの人は魚をメインで食べますし、わざわざ獣であるイノシシを食べる必要もない」(綾子さん)
「以前に住んでいた京都だとイノシシは冬の高級食材。料亭や旅館でぼたん鍋として出されます。平戸でも食べる人はいますが、イノシシ肉って臭いというイメージもあって、抵抗ある人が多いですね。そもそも肉の処理が雑でおいしいお肉にできなかったという事情もあるのかなと思います」(佑介さん)
捕獲したイノシシは、家の前の納屋に吊るして解体し、食肉として家のごはんになっている。また、近所の人や友人たちにイノシシ肉をふるまって、おいしさを共有している。
「多くの狩猟者は、獲ったイノシシは埋めて処分しているようです。京都では考えられませんね」(佑介さん)
平戸での1日のタイムスケジュール
続いてうかがったのは、平戸での生活は、どういうタイムスケジュールで一日が進むのだろうか。
「朝6時に起きて、犬の散歩に行って、仕事に行く前にわなの見回りに行きます。見回るだけだったら、車で10分あればできますね。もし、わなにかかっていた場合は、30分くらいかかるかな。仕事はどこも8時くらいからです。でもイノシシがかかっていたら、仕事先に電話して”すいません、ちょっと遅れます”と伝えます。平戸は、イノシシで困っている人が多いから理解があります。それで、17時くらいまで仕事をして、そこからまたわなや田んぼの見回り、薪割りや草刈りなどをして18時とか19時とか、そのくらいに帰ってきます」(佑介さん)
帰ってきたら、日があるうちは母屋の修繕をしたり、ゲストハウスを考えている離れの改装を進めている。
移住して収入面に変化は?
仕事の割合は時期によって常に変わっているそう。
「ここ数ヶ月、秋から冬にかけては雑木林を整備する仕事が多く、イノシシ狩りは通年やっています。春先や秋口は田植えや稲刈りの手伝いもあります。夏は平戸の観光シーズンなので、カヤックの仕事も入ってきます」(佑介さん)
「京都市内に住んでいたころからすると収入は半分。ただ、山間部の南丹市美山に移ったときに半分になっていたので、平戸に移住しても収支の割合はそのままスライドしています。でも、家賃も安いですし食費もあまりかかりません。なので、出ていくお金も少なくなりました。トントンになったかわりに、よい環境とおいしい食べ物が手に入るようになりました」(綾子さん)
平戸への移住は非常に順調に進んでいるようですが、仕事は移住者がいちばん頭を悩ませる大きな問題。
「移住を検討する人は、仕事はどうなのかとか、土地の人となじめるかとか、不安を感じると思います。私たちは人とのご縁が本当によかった。そういった縁を感じたら、“見る前に飛べ”ですね」(綾子さん)
すると、すかさず「僕は飛ぶ前に見にきてるけどね」と笑いながらツッコむ佑介さん(移住の経緯についてはvol.1参照)。ほのぼのとした夫婦の仲のよさが伝わる瞬間でした。
次回は、住まいのこと、地域コミュニティとのかかわり方について、移住者だからこそわかることについて教えてもらいます。
【vol.3に続く】
吉田さん夫婦が開業準備を進めているゲストハウス、長崎県の移住情報はこちらまで。
一棟貸しの古民家ゲストハウス「山彦舎」
2017年春季オープン予定
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【PROFILE/george】
茨城県東海村出身の32歳。インテリア雑誌、週刊誌、書籍、ムックの編集を経て、現在Webディレクター。4年前の朝霧ジャムに行って以来、アウトドアにハマる。テントはMSRのエリクサー3、タープはZEROGRAM。車を持っていないので、キャンプに行くときは知人の車に相乗りが常。なので、基本の装備は「軽くコンパクトに、友人の負担にならないこと」が信条