風情に満ちた雪国の冬
雪かきが大変であったり、交通事故が発生しやすくなったりと、何かと不便なことが多い雪国の冬。
実際に住んでいると不都合な点もよく見えてきますが、そのいっぽうで、何年住んでも飽きることのない風情もあります。青森県出身の筆者はこれまでに、雪がほとんど降らない地域で暮らしていたこともあります。
ですが冬が訪れるたび、少し物足りない気分になっていました。それはおそらく、常に身近にあった風情が、そこにないから。その経験から筆者が再認識した、雪国ならではの風情をお伝えします。
【雪国の風情ポイント】冷たくて澄んだ朝の空気
枕草子の一説にある「冬はつとめて」という言葉。これは「冬は早朝がよい」という意味です。感じ方はさまざまあると思いますが、冬の朝の清々しさは、ほかのどの季節よりも素晴らしいものです。
筆者は過去に、会社員として夜勤についていたことがあります。深夜に眠い目をこすりながら出勤し、解放されるのは朝8時。すぐにでもベッドに飛び込みたいほど、疲弊しているはずの状態です。
しかし、その疲れや眠気も、キリッと冷えた空気が鼻を通るだけできれいに吹っ飛びます。そのときの言いようもない高揚感は、会社を退職して数年経過した今も、はっきりと覚えています。
朝の散歩の気持ちよさも格別です。軽い運動で体温が上がり、冷たい空気を肌で感じながらも寒くはない。この状態が本当に気持ちよく、クセになります。
【雪国の風情ポイント】冬ならではのイベント
雪国の各地では、雪を利用したイベントが開催されます。“体験する”タイプのイベントもあれば、“鑑賞する”タイプのイベントもあり、そのスタイルはさまざま。
体験するタイプのイベントは、子ども向けのものも多くあります。雪で作った巨大な滑り台を利用するチューブスライダーや、競技としてもおこなわれる本格的な雪合戦などがあり、場所によってはテーマパークのような規模でセッティングされることも。
鑑賞するタイプのイベントといえば、雪像や氷像といった、人の手による造形物を楽しむもの。さらに樹氷や氷柱にダイヤモンドダストなど、自然の姿そのものを鑑賞しようというものもあります。
鑑賞するタイプのイベントは夜間のライトアップが伴っていることも多く、その様子はまさに幻想的。筆者が住んでいる地域では「地吹雪体験」という、雪国の過酷さをあえて楽しもうというイベントも開催されます。
これは県外からの観光客向けですが、移住を考えている人が参加してみるのもいいでしょう。
【雪国の風情ポイント】月明かりに照らされた夜の静寂
天気がよく、月が出ている夜は、街灯がなくてもぼんやりと明るくなります。積もった雪に月明かりが反射しているからであり、この景色もまた、ほかの季節では体験できない情緒にあふれています。
それをより感じられるのは、深夜の散歩。繁華街でもなければ、深夜に外を歩いている人はまずいません。虫や動物の生命を感じられる夏の夜とちがい、冬の夜はまるで、時間が止まったかのような静寂に包まれます。
薄明かりのなかで聞こえるのは、サクサクと雪のうえを歩く音だけ。途中、ポツリと置かれた自販機で缶コーヒーを買い、ホッとひと息。この缶コーヒーの味がまた最高です。
【雪国の風情ポイント】安心感を与えてくれる灯油の匂い
幼少の頃から馴染みのある匂いは、人に安心感を与えてくれます。筆者にとって、もっとも馴染みのある冬の匂いは、灯油の匂いです。
雪が降る前から使用が始まるストーブは、いち早く冬の到来を感じさせる存在。灯油ストーブは家庭だけでなく、食堂や商店などで使われていることもあり、行く先々でその温かさと灯油の匂いに癒されます。
また、匂いというのは、過去の記憶を呼び覚ますトリガーとなることもよく知られています。1時間に1本の電車を、教科書を読みながら待っていた駅。近所にコンビニができた1年後、店を畳んでしまった駄菓子屋。ストーブで暖をとるだけのつもりだったのに、過去のいろんな風景を思い出してしんみりしてしまうことも。
それだけ季節限定の匂いには、感情に対して強烈に訴えかけてくるものがあります。
【雪国の風情ポイント】胸が高鳴る春の訪れ
四季の移り変わりをはっきりと感じられるのも、雪国のよさ。とくに冬から春に変わる際、景色の変化が顕著にあらわれます。
雪国に住んでいると、どうしても冬の間は行動が制限されてしまうのがネック。それだけに3月や4月に入って雪が溶けると、一気に行動範囲が広がり、生活のスタイルに大きな変化が生まれます。新たなスタートに、期待や喜びが湧き上がる時期。
そしてアウトドア好きにとっては、冬の間我慢していた趣味を再開できる、待ちに待ったタイミングでもあります。
雪国は、自然好きにとっては最高の環境?
雪国の冬は、毎日のように雪かきをする必要があったり、行動範囲が制限されたりと、不便なことがたくさんあります。そのため、雪が積もらない地域から雪国へ移住するには、相応の覚悟が必要です。
ですがそれと引き換えに得られるものもまた、たくさんあります。生活に利便性を重要視する人には、雪国での暮らしは不向きでしょう。
いっぽう、便利な生活よりも、風情を感じながらの生活に憧れている人であれば、雪国は魅力的に感じられると思います。
雪国での暮らしに興味がある人は、試しに短期間、住んでみてはいかがでしょうか。そこから何十年住み続けても価値を失わない、素晴らしい魅力を発見できるかもしれません。
写真・文/斎藤純平
【Profile/斎藤純平】
キャンプ、バイクツーリング、スキューバダイビングを趣味とするアウトドアライター。加えてこれから狩猟を始めようかと画策中。何をするのにも基本的にすべて一人で、キャンプもツーリングも思い立ったら即出発。読み手にとって本当に役に立つ情報を発信します。
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