日本でスノーボードブームが巻き起こったのは1990年代だった。以来、冬のレジャーとして定着したスノーボードだが、最近は親子連れでゲレンデに戻ってくる方も増えてきていると聞く。自宅に昔の道具はあるけれど、初心者のまま10年間は出かけていないなんて方のために、最新のスノーボード事情をご紹介! 第2回はスウェーデン発のアウトドアウェアで人気のホグロフスで最新事情を聞いた。
>>短期集中連載【10年ぶりのスノーボード企画】第1回/古い板とブーツは使えるの?
スウェーデンのアウトドアブランド「ホグロフス」に直撃!
まず今回、企画に協力してもらったホグロフスのブランドについて説明をしておきたい。ホグロフスは1914年にバックパックの製造販売からスタートしたスウェーデンのブランドだ。1935年に新工場を設けて生産を拡充、1940年代には多くの製品のモデル名を自然やアウトドアアクティビティに関連したキーワードから頻繁にネーミングするようになった。
この伝統は今日も受け継がれている特徴のひとつ。北欧の高い環境保護基準を採用し、サスティナブルなものづくりを実践している最先端の企業でもある。
ホグロフス 原宿
住所 東京都渋谷区神宮前6-12-23 原宿山田ビル 1F
TEL 03-6427-1410
営業時間 11:00~20:00
https://haglofs.jp/
派手からアースカラーへ。ウェアのチョイスが変化した理由は?
取材に応えてくれたのはアシックスジャパン ホグロフス事業部でMD・マーケティングを担当する丸地悦朗さん。丸地さん自身も長年のスノーボーダーだ。
最初にデザイン面の変化から話を聞いてみると、色柄の変化があるという。
「10年ほど前は、原色など派手なカラーや柄が人気でしたが、現在はアースカラーなど落ち着いた色柄のウェアが増えています。その背景にあるのが、現在30〜40代くらいになっているスノーボーダー第一世代の好みの変化です」(丸地さん、以下同)
スノーボーダーが年齢を重ねて落ち着きのある世代になったことで、目立つウェアを選ぶ必要がなくなったわけだ。
第一世代の年齢による好みの変化に加えて、全世代的にスノーボード専業ブランドのウェアよりも、アウトドアブランドのものを着たいと考える人が増加しているとも。アウトドアブランドのトレンドとして自然の風景に近い色合いを取り入れる傾向があり、スノーボードウェアにも同様の変化が現れてきているのだ。
汎用性の高さでアウトドアブランドのウェアが人気に
アウトドアブランドが選ばれる理由はデザイン面だけではない。バックカントリーでパウダースノーを楽しむ人が増えたことも、アウトドアブランドの人気が高まった要因とのこと。
「バックカントリーは、整備された環境ではなく、自然に分け入っていくので高い機能性が求められます。その点から、タフで機能的なアウトドアブランドが選ばれるようになりました」
アウトドアブランドのウェアは、さまざまな環境下で快適性をキープするように機能性を追求している分、汎用性が高いのも魅力だ。
「アウトドアブランドのウェアのなかには7万円~8万円と高価格のシェルもあります。それでも選ばれるのは街中で着られる汎用性があるから。アウトドアウェアはとにかく軽くて、防水性と透湿性があり、立体裁断で着心地も快適です。非常に高い機能性になっています」
丸地さんが高機能の例に挙げたのが防水透湿素材の代表格であるGORE-TEX®。同ブランドのホームページを見ると、種類の多さに驚く。防水性を優先した「GORE-TEX®」、快適性を高めた「GORE-TEX INFINIUM™」の2つのプロダクトシリーズがあり、そのなかで前者は6種類、後者は2種類の素材に細分化されている。
素材競争の一方で、環境保護に対して欧州の基準はどんどん高度なものを要求されるようになっている。ホグロフスでは、そうした環境保護の基準に対応できる自社素材”PROOF”を開発するなど、新しい取り組みを行っていて、見えないところでウェアに変化は起きていた。
古いウェアは使ってよいのか?
10年前のウェアが使えるのか? 一番気になる質問を丸地さんに聞いたところ、条件付きながらOKの回答が得られた。
「10年前のウェアは劣化している可能性があります。でも、好天のゲレンデで滑るのであれば使っていいと思います。仮に経年変化で破れたとしても、スキー場の中なら命の危険はないでしょうから。ただし、古いウェアでバックカントリーには出ないでください」
コアなスノーボーダーともなれば、毎シーズン、ウェアを買い替える人は珍しくないという。初心者であれば、そこまでは必要ないだろうが、ウェアは経年変化するものであることを頭に入れておきたい。
ホグロフスの最新ウェアをチェック
では、順に現在のホグロフスの製品を見ながら、最近の傾向を探っていきたい。
ハードな雪山でスキーやスノーボードを楽しむ人はハーネスを着けることがある。その場合、両足の付け根にハーネスを装着するので、裾が邪魔にならない着丈の短いものが選ばれる。さらに、素材の機能性向上、着心地をよくするための立体裁断の進歩は目覚ましい。
その一方で着丈のバランスやスノースカートなどの仕様は、10年前からさほど大きく変わっていないそうだ。
「COULOIR JACKET MEN GORE-TEX®」背部にフランネル素材を使用。7万9000円(税別) |
袖下から脇にかけてジッパー式のベンチレーションが設けられている。 |
「NENGAL PARKA MEN」GORE-TEX®素材を使ったbluesign®承認の2レイヤージャケット。使いやすいポケットを多く配し、収納性も優れている。5万9000円(税別) ※bluesign®は、 |
内側には雪や風の内側への流入を防ぐスノースカート付き。 |
「NENGAL 3L PROOF PARKA MEN」使用するProof素材は北欧の高い環境基準をクリアしたホグロフス自社開発の素材で通気性とサステナビリティを実現している。6万1000円(税別) |
フロントにジッパーが2本並行してついており、完全に閉じるか、メッシュ素材を露出させるかで通気の調整が可能。 |
アウトドアウェアをスノーボードで使うには
アウトドアウェアを雪山で使う場合には、内綿や裏地のないシェルの下にフリースや薄いダウンウェアなどを重ね着して、状況に応じた温度調整を行うのが基本だ。ホグロフスの製品を例に、インナーに使えるウェアを見てみよう。
インナーダウンを合わせる人が多いが、最近の傾向としては化繊のインサレーションウェアに注目が集まっている。というのもダウンは軽くてあたたかいが、水に濡れると保温力が著しく下がってしまう。その点、速乾性があり、保温性も高い化繊のウェアは雪のアクティビティにうってつけだ。最近は化繊のクオリティがかなり上がっていて、ダウンに匹敵する保温性や軽さを持つ素材も増えているという。
また動物愛護の視点からも動物由来のダウンの使用を控える動きが出てきている。
「ESSENS MIMIC HOOD MEN」内綿にはダウンに匹敵する保温性と透湿性を持つリサイクル合成繊維QuadFusion™Mimicを使用。サイドパネルにストレッチフリースを採用し、動きやすさとスポーティなシルエットを追求。リサイクル素材を使用し、過フッ素化合物フリー素材を採用。QuadFusion™Mimicはそうした声に対応する素材といえる。3万4000円(税別) |
リサイクル合成繊維QuadFusion™Mimic。らせん状の中空繊維でできている。 |
フリースウェアも中間着として人気
「雪山でも動くとかなり汗をかきます。汗冷えは危険なので、アウトドアブランドはそういった事態も想定しています。そのため、アウトドアブランドのフリースは保温性と同じくらい、透湿性や速乾性にもこだわっています」
もちろん濡れ具合によるが、高機能のフリースは汗で濡れても休憩のときに、少し干しておけば乾くという。
ウェア選びでは、温かさに目が行きがちだが、濡れに対する対策も頭に入れて選ぶのが賢明だ。
アウトドアブランドとスノーボードの関係
「ホグロフスだけでなく、ザ・ノース・フェイス、パタゴニアなどもスノーボード分野に強くて、それぞれが契約ライダーと協力しながらブランドを展開しています」と丸地さん。
20代など若いうちはジャンプやグランドトリックなどに積極的に挑戦した世代も30代になると体力的なことだったり、仕事のためにケガしないようセーブしたり、無茶ができなくなってくる。
そこでほかの楽しみを求める彼らに人気となるのがバックカントリーなどパウダースノーでの滑走。
ホグロフスのチームでは、ジャンプやコンペティションをこなしてきたライダーと取り組んで、バックカントリーの楽しさを伝えている。いざとなれば「飛べる、回れる」実力が危険を伴うバックカントリーで心強いのは想像がつく。
バックカントリーを滑るホグロフスフレンズたちのショートフィルムをぜひ見てほしい。パウダースノーが波しぶきのように舞っているのがよくわかる。
北欧の雪山はゲレンデまでが遠い?
北欧の事情も知っている丸地さんに、北欧と日本のスキー、スノーボード事情の違いについても聞いてみた。
「スウェーデンではアウトドアが生活に密着していますね。日本だと北海道も同様だと思います。あちらの地形は、日本と違いゲレンデがある山のふもとまでクルマでアクセスできません。板やスノーシューを装着した状態でゲレンデまで長い距離を歩いて行くのが普通。そのため、スノーボーダーよりもスキーヤーが多いですね。元々、北欧はスキーの文化が根強くて、クロスカントリーも日本よりはるかに普及しています。スキーショップでは、普通のスキーと同じくらいのボリュームでクロスカントリースキーが並んでいるんですよ」
10年前のウェアは使えるかもしれないが、ここは心機一転、新しいものを購入すれば雪山へ久しぶりに向かう気持ちも盛り上がるのではないだろうか。
丸地さんの説明にもあったようにアウトドアウェアなら、タウンユースに使えるものも多いので、ふだんの1着を選ぶのも兼ねて気軽な気持ちでショップに足を運んでみてほしい。
短期集中連載【10年ぶりにスノーボード】第1回記事はこちら>>【10年ぶりのスノーボード 古い板とブーツは使えるの?】
文・T.Kawata、CAZUAL編集部