移住者の野田さん夫妻は廃校になっていた小学校を借り受けて、宿泊施設<みどりの時計台>として開業。
妻・由美子さんは校長先生、夫・正樹さんは用務員さんという、小学校ならではの肩書きを使って運営している。
改めて大豊町に住んでみて良かった点は?
「忘れていたことに色々気づくことができた。
移住だからってわけではないかもしれないですけど、都会で暮らしてたときには忘れてたことを色々思い出すなって。
大豊町って指定のゴミ袋が60円くらいするんですよ。いままでゴミ袋にお金がかかるなんて認識もなかった。
ゴミをポイポイ捨ててたらゴミ袋代がもったいないから、リサイクルできるものはリサイクルしようとか。生ゴミはコンポストで肥料にしようとか。
発泡トレイとか文明的で便利なものほど、処理するためにも手間やお金がかかって、逆に無駄だったりして。スーパーで肉とか魚とかを買っても、発泡トレイをまたスーパーに持っていって回収してもらえば、家庭で出るゴミが極端に減るんですよ。
缶とかビンとかの収集のタイミングも月に一回しかない。ここではお客さんが飲み物を持ち込むので、空き缶とかもたくさん出るんですよ。どうしようかなって最初は思ったんですけど、リサイクル業社に持って行ったら、結構な金額で引き取ってもらえるんです。
あと良かったのは、ここは街灯とかが圧倒的に少ないので、暗くなったら家に帰ろうみたいな、そういった太陽と共に生きるとか。
人間って、本来そういう生活サイクルのはずなのに、都会ではいつまでも煌々とあかりが点いていて。3.11のときとか、都会は電気がなくって大パニックになったじゃないですか
「でもここでは暗いのは当たり前ですし、懐中電灯を持って歩くのは普通のことなので。電気がなくてもパニックになってなかった。いざっていうときには、こういうところで暮らしている人の方が、生きる力が強いんだなって感じたんですよね。
夫婦二人ともお酒を飲むのが好きなので、ここでは都会と違って歩いて飲みに行くような場所もない。外で飲むとなるとクルマで出かけることになるから、飲みに行ったら家に帰ることができない。だから家で飲むことが普通になってくる。
20代のバリバリ飲み歩いていたころは都会に住んでて、徐々に落ち着いて来たころにこっちに住むようになって。タイミングもちょうどよかったのかもしれないですね。
たまに外に出かけるときは『代行タクシー使っちゃうおうか』って、それだけでリッチな気分になれる(笑)。
高知市内に出かけたときには、代行タクシーで帰ってくるくらいなら、泊まった方が安いから泊まればいい。滅多に行かないから、オシャレなところへ食べに行こうよとか。
考えれば、贅沢なことじゃないですか。些細なことかもしれないけれど、それは幸せなことかもしれないって感じるようになりましたね」
移住の難しい点は?
「コミュニケーションですよね。いかに郷に行ったら郷に従えっていうのはありますけど、だからといって無理に合わせようとして、しんどくなって結局出て行ってしまったり、っていうのはよく聞きます。
自分たちはこういう人間で、こういう考え方で、こういう暮らし方がしたいんだっていうアピールをするのも必要だし、だからそれを理解してもらおうという努力はしないと難しいと思いますね。
もちろん地元の人たちのことも理解しないといけないし。お互いの理解のし合いだと思うんですね。それができればいいんですけど、それがなかなか簡単にはできないところが難しいんだと思います。
私たちもこういうサービス業をしていると、土日の行事には参加できないこともあるので、最初に『自分たちの生業は、土日がメインなんだ』ということをアピールしていました。
田舎にはサービス業っていうのがないので、『日曜日なのに、なんでやれへんの?』って、理解してもらえるのに時間がかかる。それでも少しずつ、『仕事なんじゃしょうがないね』って理解してもらえるようになって」
移住してやりはじめたことってありますか?
「昔から興味はあったんですが、こっちにきてからクライミングをやるようになりました。となりの本山町に高知国体の会場になった超立派な施設があるんですよ。ガイド仲間とそこに通うようになって。
でも教えてくれるような人がいないので、我流で覚えて。
そのうち高知の山岳連盟の人たちが、いっしょに練習しませんかって声かけてくれて。それまではロープを使わないボルダリングしかしてなかったけど、ロープも使えるようになって。
クライミングは、やってないと全然できなくなってしまうから、なんとか時間をつくっていまも続けてて、施設を使ったりとか、自然の岩場を登ったりとか」
これからはじめたいことってありますか?
「川に遊びに行ったりする時間も、もう少し作りたい。それと一番やりたいのはDIYですね。
いま生活で使っているのは職員室。友達とかも遊びに来たらすごく落ち着くと言ってくれる。
近くに飲み屋とかもないので、この職員室をバーみたいにして、人が集える場所にしたいなと。でもプライベートも必要なので、自分たちのプライベートな家を作りたい。それがごっちゃになるとしんどくなるので、完全にプライベート空間を作っておけば、人がもっと来られるような場所にできそうじゃないですか。宿だけじゃない次の展開をするために。
もう50代になるので人生も折り返し。これから体の自由もだんだん効かなくなる。
気力もなくなっていくなかで、あんまり歳を取ってからではできなくなる。まだこの意欲があるうちに終の住処を確保しておかないと。
土地は借り物ですけど確保したので、あとは上物を作るだけ。本当はログハウスみたいのを、自分らでイチから作りたかったけど、さすがにそこまでの時間はない」
「30代からやってれば、時間はいっぱいあったけど、もう50だから、早く完成させてゆっくりしたい。時間は買えないから(笑)。
そこは妥協して、外装だけは作ってもらって。柱を立ててもらったら、あとはどこを壁にしようとか自分らで自分たちの使いやすいように。この春から着工して、夏くらいには外装は完成して。
逆に夏までは自分らも忙しいから、冬になったら内装は自分らで少しずつ作ろうみたいな。それがいま1番の楽しみ。
そのプライベート空間が完成したら、こっちの職員室をもっとパブリックなところにして。どういう形にするか、まだまだ煮詰まってないけど。
たとえば、何曜日の夜だけバーにしますとかやったら面白いとか。地元に飲み屋もないので、地元の人にも利用してもらって。ここは宿泊施設なので、泊まるところはいくらでもあるので(笑)」
【了】
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